「この世界の片隅に」フランスで口コミ広がりロングラン 批評家、観客ともに高評価
2017年11月4日 11:00
[映画.com ニュース]フランスはおそらくイタリアと並んで、ヨーロッパで日本のアニメ人気の高い国だ。いまや日本好きにとって外せない定例行事となったジャパン・エキスポや、カンヌから独立して世界的に権威のあるアニメ・フェスティバルに成長したアヌシー国際アニメーション映画祭などがあることからも察せられる。
そのアヌシーで、今年審査員賞に輝いた片渕須直監督の「この世界の片隅に」が、フランスでじわじわとロングランを続けている。周知の通り日本では社会現象になった本作、フランスの劇場公開はバカンス明けの9月6日。もっとも、公開当初はほとんど街頭ポスターなどの宣伝も見当たらず、正直大丈夫かと心配になった。大掛かりな披露試写をもうけて、鳴り物入りで公開した「君の名は。」とは明らかに規模も異なり、こちらがフランス全土で約120スクリーンの展開で、1カ月で25万人を超える動員を集めたのに引き換え、「この世界~」は68館で、1カ月を超えた現状で動員約4万人。それでもこの規模で2時間5分のアニメ作品としては大健闘だろう。配給会社のSeptieme Factoryが地方を拠点にする会社であり、日本のアニメを配給するのは今回が初で、あまりこの手の作品の宣伝に慣れていなかったということは言えるかもしれない。
さらにアヌシーで賞を取ったとはいえ、片渕監督の作品がフランスで劇場リリースされるのは初めて。ジブリ映画のような知名度もなく、昭和を舞台にしたストーリーは、現代のクールジャパンに興味のあるティーンや若いアニメオタク層にはダイレクトに訴求しなかったようだ。
だがその一方で、観た者の評価は批評家、観客ともに星取りで5点満点の4点(仏の映画サイトallocine参照)と、きわめて高い。たとえば「本作は、困難な日常生活のなかで世界に対する揺るがぬ愛の秘密を探しあてながら、あくまで派手さを排除することにより光り輝いている」(ル・モンド紙)、「壮大にして控えめ。歴史的な言及に留まらない、忘れ得ぬ女性の肖像」(テレラマ誌)、「アニメーションの最高峰。ロマネスクな詩情」(ステュディオ・シネ・ライブ)といった賛辞が並ぶ。
市場調査のため何軒か映画館を回ってみたが、子供やティーンよりも大人の観客層が多く、また男性よりも女性客が過半数の印象だ。3週目からは毎日上映するところが少なくなっていたため、「時間を合わせて劇場まで観に来るのが大変だった」という観客もいて、もう少し観やすい環境であれば集客にも繋がるのではと感じる。
アニメに限らず日本映画が好きという40代の女性に感想を求めたところ、「アニメーションのスタイルがとても詩的で美しい。また日々の庶民の生活がディテールに溢れ、魅了された。その一方で、広島の原爆など歴史的な重さ、悲劇が語られていて心を動かされた」との評価。一方30代の男性は、「真ん中あたりでやや中だるみがあって長いと感じた。後半まですずの生活がとても丁寧に描かれているわりに、戦争のクライマックスの部分がはしょり気味な印象だったのが、ちょっと残念」、30代の女性は「すずが見かけも精神的にもとても幼く描かれているので、始めは年齢の見当がつかず戸惑った。すずよりもしっかり者の義姉の方に共感したが、物語が進むに連れて、頼りないすずがしっかり一家の中心になっていくところに成長が感じられて良かった」と語ってくれた。
こうした作品は口コミで広がって行くタイプだが、実際公開1週目よりも現在の方が6館も上映館が増えている。配給会社のディレクター、ナンシー・ドゥ・メリタン女史はこう語る。「もちろん映画館の意向次第ですが、こういう作品は良さが伝わるまでに時間が掛かることを考慮して、なるべくロングランさせたいと思います。また戦争の歴史が描かれている本作は、教育的にもとてもいい素材だと思うので、学校行事として生徒たちに映画を観せたり、あるいは市民会館などで特別上映をオーガナイズする機会を長期にわたって作っていくつもりです」
12月から来年3月までは、パリ市郊外のピエールフィット・シュル・セーヌにある国立史中央文書館(Archives Nationales/ http://www.archives-nationales.culture.gouv.fr/fr/web/guest/site-de-pierrefitte-sur-seine)で、広島と長崎の被爆者たちによるデッサン展が開催され、その関連イベントとして本作を上映する予定とか。観た後にいつまでも心の片隅を温めてくれるような本作の評判が浸透し、今後もロングランが続くことを期待したい。(佐藤久理子)
関連ニュース
「秒速5センチメートル」実写映画化! 主演は新海誠が“最も信頼する”俳優・松村北斗「原作チーム、ファンの方への敬意を胸に挑ませていただきます」
2024年9月22日 05:00
映画.com注目特集をチェック
時代は変わった。映画は“タテ”で観る時代。
年に数100本映画を鑑賞する人が、半信半疑で“タテ”で映画を観てみた結果…【意外な傑作、続々】
提供:TikTok Japan
年末年始は“地球滅亡”
【完全無料で大満足の映画体験】ここは、映画を愛する者たちの“安住の地”――
提供:BS12
【推しの子】 The Final Act
【忖度なし本音レビュー】原作ガチファン&原作未見が観たら…想像以上の“観るべき良作”だった――!
提供:東映
物語が超・面白い!
【オススメ“新傑作”】大犯罪者が田舎へ左遷→一般人と犯罪、暴力、やりたい放題…ヤバい爽快!!
提供:Paramount+
外道の歌
強姦、児童虐待殺人、一家洗脳殺人…安心・安全に飽きたらここに来い【テレビでは流せない“猛毒作”】
提供:DMM TV
全「ロード・オブ・ザ・リング」ファン必見の伝説的一作
【超重要作】あれもこれも出てくる! 大歓喜、大興奮、大満足、感動すら覚える極上体験!
提供:ワーナー・ブラザース映画
ライオン・キング ムファサ
【全世界史上最高ヒット“エンタメの王”】この“超実写”は何がすごい? 魂揺さぶる究極映画体験!
提供:ディズニー
映画を500円で観る裏ワザ
【知らないと損】「2000円は高い」というあなたに…“エグい安くなる神割り引き”、教えます
提供:KDDI
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。