「エルネスト」阪本順治監督とオダギリジョーが挑んだ革命の戦果
2017年10月6日 18:00

[映画.com ニュース]革命家チェ・ゲバラとともに戦った日系人がいた。フレディ前村ウルタード、戦士名エルネスト・メディコ。キューバ革命の英雄ゲバラからそのファーストネームを戦士名として授けられた青年は、祖国ボリビアのために25歳で散った。ゲバラとフレディ、2人の“エルネスト”がボリビアで処刑された1967年から50年の節目に完成した、日本とキューバの合作「エルネスト」(現在公開中)は、阪本順治監督とオダギリジョーが挑んだ革命の戦果だ。
1941年に鹿児島出身の父親とボリビア人の母親のもとに生まれたフレディは、長ずると医師を志しキューバへ留学。その直後「キューバ危機」を経験し、学生生活の中でキューバ革命の英雄チェ・ゲバラやフィデル・カストロと出会う。そして、母国ボリビアで軍事クーデターが勃発。フレディは、ゲバラが組織する革命支援隊に志願し、訓練を経て、ボリビアの山中でのゲリラ戦へと身を投じる。
「光が当たっていない事柄や人物に、あえて光を当てて映像化することが映画の使命」。そう語る阪本監督は、「名もなき普通の医学生が、母国だけでなくラテンアメリカという視野で解放したいという思いで駆け抜けた青年時代」に魅力を感じたという。
今回の使命を果たすための同志に選んだのは、「この世の外へ クラブ進駐軍」と「人類資金」に出演したオダギリだ。「3本目を彼とやるときは、それなりに色々なものと戦わなければかなわない企画でやろうと思っていた」という決意とともに、全編スペイン語で演技する準備をはじめ、減量など身体的な役づくりも「当たり前のようにやって、それで臨んでくれる」という信頼があった。
脚本がない状態でオファーを受けたオダギリは、ラテンアメリカ諸国の革命運動に日系人が関わっていたことに衝撃を受けるとともに、「いまの日本の映画界では、相当な挑戦になるのは簡単に想像できた」と語る。「だからこそ、そういう作品に参加したい気持ちが常にありまして、それが阪本監督だったらなおさら。あと、ゲバラやキューバのことに昔から興味があったので、とにかくこれは参加しなきゃいけなという気持ちになっていました」と振り返った。

フレディとの共通点について、「これだと思ったものに対して、絶対に諦めたくないというか、そこにたどりつくまで諦めずに努力を続ける。自分にもそういうところはあるなと思いますね」と言うが、その不屈の向上心がなければ本作は成立しなかっただろう。全編スペイン語、しかもフレディの生まれ育ったボリビアのベニ州の方言での演技には、アメリカ留学時に英語で演技を学んだことや、過去に海外作品へ出演した経験が助けになった。「どうアプローチすればいいかは、自分の中で道が出来ていました。あとは、どれだけ時間をかけて、どれだけ集中をキープできるかだったと思います」。そうしてたどり着いた演技は、キューバのスタッフの心を動かした。
劇中、医学の道を進む中で、不正や不平等に対する怒りを抱え、自由のための闘争に意義を見出していくフレディの姿は、ゲバラの若き日々と重なる。東西冷戦真っ只中の1962年に起きた「キューバ危機」、あわや核戦争突入という緊迫状態は米ソ2国間の取引で終結したが、それはキューバの意向を無視した“解決”だった。民兵に志願し海岸警備の任に就いていたフレディは、理不尽な結末に対する怒りをあらわに上官に抗議する。この場面でOKが出たとき、キューバのスタッフから拍手が沸き起こったそうだ。
革命に殉じた知られざる高潔な戦士の人生を、役者として戦い抜いたオダギリ。「この作品を乗り越えるということが、僕にとってひとつの目標でした。途中で音を上げたり、甘えが出たりすることなく、監督が設定するものを常に越えたところでキープして終わらせるってことを目標にしていたので、それが達成できたっていうことから、多少自信をもらいました。弱い部分を自分で見ることなく終えられたことが、一番の収穫だったかなと思いますね」と静かに総括する。
阪本監督は監督と主演の関係で初めて挑んだ本作で、「1発目の彼のショットを見て『俺にとっての、この映画にとってのフレディだ』と思えたので、彼がずっと準備してきたこと、ここに到達したってことがうれしかった。終わってみると、“彼の本質”と“現在のオダギリ”というのがよくわかった」とねぎらう。「だから、次はどんなハードルのものに臨むんだろうというのが楽しみですよね」。ひとつの戦いを終えた2人の笑い声が重なった。
(C)2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.
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