町山智浩、“生涯最高の映画”を語る「『戦争のはらわた』がなければ秘宝はなかった」
2017年9月16日 11:00

[映画.com ニュース]現在公開中のアメリカ映画界孤高の巨匠、サム・ペキンパーの「戦争のはらわた」デジタルリマスター版大ヒット満員御礼記念トークイベントが9月15日、上映館の新宿・シネマカリテであり、本作を“生涯最高の映画”と評する映画評論家の町山智浩氏が作品の魅力を語った。
圧倒的な演出スタイルと斬新な編集で従来の映画様式を塗り変え、激しいバイオレンス描写で知られるペキンパー唯一の戦争映画。ジェームズ・コバーンを主演に迎え、死者3000~4000万人以上といわれた第2次大戦下のロシア戦線を舞台に、狂気の戦場でソ連軍の猛攻により絶望的な状況に追い込まれたドイツ小隊の運命がドラマチックに描かれる。
町山氏は、中学生だった本作公開当時、1日に4回続けて鑑賞し、翌日も4度見たというほどの衝撃を受けたと明かす。今回のリマスター版公開にあたり、ドイツへ渡りペキンパー研究家のマイク・シーゲルに取材を敢行した。
「この映画で一番すごいなと思うのは、ソ連軍の猛攻撃のシーン。何千、何万人迫ってくるようなのに、エキストラは50人しかいなかったそう。ユーゴスラビア政府が協力することになったけれど、ドイツはクロアチアと結託してユーゴに侵略したので、ユーゴ軍がドイツ映画に協力したくないと言って、現場で嫌がらせをした」「T30重戦車がぞろぞろ出てくるはずが、3台しかなく、そのうち1台は動かなかった」と撮影当時の状況を解説。「それでもペキンパーはいろんな角度で撮って、編集のマジックでものすごいシーンに仕立て上げた」と絶賛する。
また、本作プロデューサーは日本でもヒットした「女子学生(秘)レポート」シリーズなどを手掛ける西ドイツのソフトポルノ界の大物で、その利益で「戦争のはらわた」を企画したがペキンパーが資金を爆薬につぎ込み、すぐに資金難に陥ったこと、劇中で用いられる機関銃などについてシーゲル氏と話したことなど、様々なエピソードを披露。
ラストシーンについて、「途中でお金がなくなって結局撮影中止になった。その後イギリスのEMIがお金を出して、未編集フィルムを買い取ったので、ペキンパーがありもののフィルムで作り上げたのがあのラスト」と説明し、「最初はああいうラストシーンとして撮られたものではなかった。ペキンパーのいたずらは、少年兵を生き返らせたこと。映画って、偶然といたずらとお金のなさから生まれてくると思った。とても意味のある結末になった。ペキンパーらしい、暴力を否定しながら暴力にとりつかれる男の幼稚さが、編集室で作り上げられたのがおもしろい」と述べた。
町山氏はコアな映画ファンの読者を擁する雑誌「映画秘宝」創刊者としても知られているが、「映画秘宝って、友人を集めて作ったガキの秘密基地みたいな雑誌。仲間でオールタイムベストテンをやったら、『戦争のはらわた』と『ファントム・オブ・パラダイス』がナンバー1、2だった。それで俺たちは友達なんだと確認した(笑)。ペキンパーのすごいところはお金がなくても爆弾をぶちかましちゃうとこ。それで、映画が撮れなくなって、作った映画は愛されるけど、お金を出す人からは嫌われてしまう。特にこの映画は(主人公の)シュタイナーとペキンパーが一体化して、戦争映画を超えてペキンパーの心情が出ている素晴らしい作品。『戦争のはらわた』がなければ(映画)秘宝はなかったと思う」と述懐した。
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