「反骨の人」「自由人」…ジャンヌ・モロー死去、大女優の生き方を称えた仏メディア

2017年9月2日 14:00

ジャンヌ・モローさんを追悼した仏メディア
ジャンヌ・モローさんを追悼した仏メディア

[映画.com ニュース] パリが夏とは思えないほど肌寒かった7月の終わり、ジャンヌ・モローが亡くなったというニュースが飛び込んで来た。翌日は新聞各紙が一面で報じ、著名人のツイッターは哀悼の意であふれ、マクロン大統領も弔意を捧げた。享年89歳。老衰によりひとり暮らしの自宅で亡くなっているのを、翌朝家政婦が発見したという。こう書くとなんだかもの哀しく響くかもしれないが、いつも毅然としていた彼女にとって人生の終幕をひとりで迎える、というのはある程度覚悟していたことなのではないか。彼女には最初の夫、俳優のジャン=ルイ・リシャールとの間に一人息子がいるが、誰にも頼らず最後まで一人暮らしを貫いていた。

フランスを代表する名女優なのは言わずもがなだが、マスコミの追悼記事を見て感じたのは、キャリアのみならずその生き方を称えたものが多かったこと。女性誌などは、恋多き女としての姿を報じていた。その形容は「反骨の人」「自由人」「千の顔を持つ女」「激情の人」「愛への渇望」といったもの。

実際モローが女優になった経緯がすでに、その確固たる性格と反抗的な精神を表している。ダンサーだったイギリス人の母とレストラン経営者のフランス人の父のあいだに生まれた彼女は、たまたま友人と観に行った芝居に感銘を受け、16歳で女優を志す。理解のない父に内緒でレッスンを受け、やがてコンセルバトワールに合格。その後舞台デビューを果たし、アビニョンの演劇祭やコメディ・フランセーズの舞台で評判を得る。ある日新聞に載ったレビューで真実を知った父親からついに勘当を言い渡されるが、それでも彼女がめげることはなかった。実家が歓楽街に近いモンマルトルだったため、しばらく近所に住む馴染みのダンサーや娼婦たちの世話になったという。「お金のないわたしにご飯をおごってくれたり、いろいろと世話してくれたのが彼女たちだった。その恩は一生忘れないわ」と後にモローは語っている。

あの独特のかすれ声による、ざっくばらんなもの言いでも知られ、シモーヌ・ド・ボーボワールが音頭をとった妊娠中絶の権利を求める請願書(Manifeste des 343 salopes)にも、盟友のマルグリット・デュラスらとともに署名している。

銀幕の傑作をあげればきりがないが、初期の代表作は、匂い立つような大人の魅力と洗練を纏ったルイ・マルの「死刑台のエレベーター」、ふたりの男性を翻弄するファム・ファタルに扮したフランソワ・トリュフォーの「突然炎のごとく(1962)」、倦怠と官能を全身から発散するミケランジェロ・アントニオーニの「夜」、ジャック・ドゥミの実在の叔母をモデルにしたギャンブラーを演じた「天使の入り江」あたりか。「突然炎のごとく」のなかで彼女が歌う場面は、ほんの短いながらも大きな評判を呼び、これを機に歌手としても何枚かアルバムを出している。あるいは、本作のなかでキャップを被ったいたずらっ子のようなギャルソン姿にノックアウトされた、という人も少なくないだろう。

ハリウッドにも進出し、オーソン・ウェルズの「審判」「フォルスタッフ」、エリア・カザンの「ラスト・タイクーン」などに出演。モローにプライベートでも惚れ込んでいたウェルズは、「世界最高の女優」と称賛している。ウェルズのみならず、仕事のパートナーを夢中にさせることでも有名で、ルイ・マル、トリュフォー、「夜」で共演したマルチェロ・マストロヤンニなどがその例。また意外にも、ウィリアム・フリードキンと再婚を果たしたが、2年後に破局。原因は「嫉妬深い彼が、ジャンヌ・フリードキンと改名することを要求した」からだという。

後年は、ヒロインに美しさの奥義を伝授する「ニキータ」や、死を宣告された主人公の良き理解者となる「ぼくを葬る」、さらに「クロワッサンで朝食を」の、尊大だがどこか可愛らしさも秘めた、孤独なブルジョワマダムが味わい深かった。

リベラシオン紙が2011年におこなったインタビューで彼女はこう語っている。「わたしのキャリアの集大成は、わたしの自画像ではない」「演じることはわたしにとって、信仰にも近い、完全に無視無欲なもの。何かを伝えたいということへの純粋な欲求なのです」

自分の信じるもののために闘い、人生を謳歌しつつもあくまで芸術のために生き、決して後ろを振り返らなかったその生き方は、やはり惚れ惚れするほどに潔く、魅力的だった。(佐藤久理子)

(映画.com速報)

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