「砂の器」伝説の名子役、春田和秀さん 43年を経て語る子役という“宿命”(2)
2017年8月9日 13:00
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[映画.com ニュース] --学校に行かなかったということですが、問題はなかったのですか。
春田和秀(以下、春田):大人同士のやりとりで、何があったのかは分からないですけども、決め事があったんでしょうね。今では到底、許されないことです。1年のうち300日くらいは仕事をしていたはずです。授業の代わりに、わら半紙のドリルをもらうんです。でも、勉強はあまり好きではなかった。それよりも物を作ったり、壊したりすることが好きでした。例えば小道具さんのところへ行って、ナイフを借りて、木を削ったり……。勉強といえば、ロケ地での観光地めぐりとか、社会勉強は随分させていただきました。字の読み書きは台本です。漢字にふりがながあって、読めない所を教えていただいたり。
春田:周りは大人ばかりで、子どもの共演者もほとんどいなかったです。「わが子は他人」(1974)では、(初代「あばれはっちゃく」の)吉田友紀さんが一緒だったので、松竹さんへ電車に行ったりしたりしました。「砂の器」のロケ先で、お母さんたちが連れてきた子どもと遊んだり……。そんなことは楽しかったです。
春田:電車の中や街に出ても、急に声をかけられるようになりました。うれしかったですね。お褒めの言葉で育っていくところがありますので。その後は「はだしのゲン」の第2弾「はだしのゲン 涙の爆発」(77)で主人公のゲンを演じました。ほかにも、「ガラスのうさぎ」(79)に出たり。戦中、戦後が舞台の作品が続きました。日本で撮った「がんばれ!ベアーズ」(※映画「がんばれ!ベアーズ大旋風 日本遠征」)では、日本側の選手をやりました。劇中、「家族対抗歌合戦」に出る場面もあって、バラエティにも出演しました。
春田:「はだしのゲン」では「熱中時代」などに出ていた上野郁巳君が弟役で、同じ学校に通っていました。お仕事では一緒だけども、学校では会わない。会うと反省会をするけども、友達ではない。仕事仲間という関係でした。実は、うちの学校でも学校上映があって、嫌な思いをしたことがあるんです。「はだしのゲン」は僕が主役を演じた映画ではあるけれども、みんなの映画、教材というという変なプロ意識があったんです。だから、上映される時は騒がないようにしてほしい、目立たないようにしてほしかった。ところが、学校の人に勝手に紹介されてしまった。学校関係者は、自分の学校の生徒が出ているということを自慢したかったのかもしれませんが……。
春田:紹介されてしまうと、逃げられなくなってしまうんです。たまに学校に行くと、冷たい空気も感じました。映画の中では、肥溜めに落ちるシーンもあったんです。実際はチョコレートベースで、くさくもないし、撮影中は舐めて遊んだりもしたんですけども、そういうシーンを見て、「臭いやつがいる」とか言ってくる子もいました。僕は、実はチョコレートベースなんだよ、とか説明して、かわしたりしたのですが……。
春田:はい。小6の時に樋口可南子さんがメインの事務所に変わり、デビュー作の「こおろぎ橋」(78)にも出していただきました。ほかには、NHK「あめりか物語」、TBS「男なら!」。中学になると、子役とは違う扱いになるんです。
春田:中3の夏です。俳優をやるなら覚悟を決めなければ、とも思っていました。進学のこともありましたし、答えを出さなければ、と思っていました。しかし、なかなか答えは出なかったですね。悩んで悩んで、すっと消えていくということを選びました。思春期だったので、「はだしのゲン」の時に晒し者になったということも、ひとつにはあります。普通の友人を作り、趣味を持つというのが楽だと思ったんです。自分のやりたいことをやりたい。普通の人のような生活をしたい、と思ったんです。
春田:相談する人はいなかったです。「将来、どうするの?」とか声をかけられることはあったけども、自分で言わないようにしていました。親は自分の好きなように生きるべき、と考えていたようです。それよりも、普通の生活に戻れるのかと心配していましたね。
春田さんは18年前に自動車関連の会社を立ち上げ、結婚し、一男をもうけた。しかし、家族にも子役時代について一切語ることはなかったという。まるで、「砂の器」の天才音楽家が過去をひた隠しにしたように。その理由とは……。
(最終回は春田さんの今、「砂の器」への思いについて/取材・文:平辻哲也)
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