インドの異色社会派法廷劇「裁き」 世界が注目の新鋭チャイタニヤ・タームハネーに聞く
2017年7月7日 17:00
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[映画.com ニュース]第71回ベネチア映画祭ルイジ・デ・ラウレンティス賞とオリゾンティ部門作品賞を受賞したインド映画「裁き」が7月8日公開する。ハリウッド・レポーターの「世界で最も将来が期待されている30歳以下の映画監督」に選出された、新鋭チャイタニヤ・タームハネー監督が作品を語った。
自殺を扇動する歌を歌ったとして逮捕された老歌手をめぐる裁判の行方を、裁判に関わる人々の私生活を交えながら、独特の視点で描いたインド発の法廷劇。階層や民族、言語、宗教の異なる様々な人々が生きる複雑なインド社会への鋭い洞察を盛り込んだ作品だ。
実際に裁判を実際に傍聴したことが本作製作のきっかけだという。「そこにはテレビで観るものとは異なるストーリーやユーモアがあった。物事は整理されていないし、マイクもないし、弁護士も弁舌さわやかなわけではなかった。それで興味を持って、深く掘り下げようと思ったんだ」
そしてその興味はインドの司法制度に移る。「司法機関は公的なものだが、人の生死を決定する権限を与えられている暴力的な機関でもある。また、階級や文化など異なるバックグラウンドを持つあらゆる人々が交流し協力し合うプラットフォームであるともいえる。私は、裁判官、検察官、弁護士という司法に関わる人々の人物像を探ることに興味があったんだ。彼らは権威である一方、組織の規則、手続き、序列といったものの奴隷であるともいえる。また、彼らといえども、市井の人々と同じ社会的、文化的、家族的な起源を持っている。唯一の違いといえば、彼らは権力を持つ地位にいることだ。そういう意味で、この映画は社会や集団の研究であるとも言えるんだ」
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数多くの弁護士、活動家、学者に話を聞き、何度も下級裁判所に足を運び、司法制度を描く脚本の土台にした。また、自身の住むムンバイという土地の特色も映し出した。「ムンバイは工場労働者、労働組合、共産主義者、社会主義者、移住者、学者、ジャーナリスト、そして、教師の街だ。私は移住民ではなく、昔からムンバイに住んでいる地元民の家庭に生まれた。その意味でこの映画はムンバイやマハーラーシュトラの文化に対してインサイダーの視点を持った映画だね。だから、ごく自然に、衣装、キャスティング、サウンドデザイン、撮影方法などで、多くの選択肢を用意することができた。各登場人物は、この街のそれぞれ異なる現実に生きている。この街に存在するそれぞれのコミュニティーは、密集して共存しているが、それらが重複することはない。私はこの映画で、法廷の外にいる人々のグラデーションを描こうと試みたんだ」
そして、インドならではのカースト制度の堅忍さを、映画を通して観客は知る。「カーストは目に見えない無意識の力として、この映画全体に作用している。インドのカースト制度は、この場で説明するにはあまりにも複雑過ぎるので言及を控えるけど、映画の中に人の姓を読むシーンをたくさん入れたということだけ言っておく。この映画の登場人物の姓は社会階層を表しているんだ。私が実際の法廷で見たコミュニケーションの崩壊と理解の欠如は、この映画の法廷シーンにおいて不可欠な要素になった。理論的には憲法の原則は素晴らしいものだけど、実務の場で使用されている言語は非常に難解で、ほとんどの人にとって理解の外にある。食べ物もカーストや階級を表現する重要なメタファーになった。その人がどこに住み、何を食べるかは、社会におけるその人の場所を理解するための重要なツールになると思う」
「裁き」は、7月8日からユーロスペースほかで全国順次公開。
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