綾野剛&村上虹郎“強さへの渇望”のなかで互いを求め合った「武曲」
2017年6月4日 12:00
[映画.com ニュース] 強さを求めるあまり自分を見失い、それでも剣を握ることをやめなかった――。熊切和嘉監督作「武曲 MUKOKU」(公開中)で、綾野剛と村上虹郎が体現したものは、剣道を通して出会った2人の男に芽生えた“強さへの渇望”。そして「本当の強さとは何か」という葛藤。綾野は父親から殺人剣を叩きこまれた主人公・矢田部研吾、村上は天賦の才を持つ高校生・羽田融に扮した。剣を通して幾度も“会話”をした2人が、己の剣に込めたものとは。(取材・文/編集部、写真/根田拓也)
主演・綾野と熊切監督が「夏の終り」(2013)以来、約3年ぶりにタッグを組み、芥川賞作家・藤沢周氏の小説を実写映画化。ある事件以来、自堕落な日々を送っている剣道5段の男・研吾(綾野)が、ラップの作詞に夢中な高校生・融(村上)との出会いを機に、再び剣の道を歩み始める姿を描く。
剣道未経験の綾野は、撮入前に剣道世界チャンピオンらと2カ月に及ぶ猛特訓を行い、精神及び肉体面の準備に余念がなかった。同時に、特訓を通して剣道の奥深さも知ったという。「佇まいで相手を封じて、目で相手を殺すというのは、芝居に通じるところがある。剣先をこつこつこつこつと合わせ、お互いの線(正中線)を取り合うのが会話なんです。セリフの応酬なんです」。
逆に初段の腕前の村上には、剣道未経験の融の“拙い動き”をどう表現するのかという課題があった。「下手に見えるよう木刀を振るのは難しかったです。コーチが現場にいてくれたので、『今の動きは大丈夫?』と毎回聞いていました」。
やがて2人は、“剣による対話”のシーンに挑むことに。殺人剣をふるうことしかできなかった研吾の父・将造、そんな父の亡霊にとらわれ続けた研吾、将造と同じ殺気をまとい、命の駆け引きを切望する融。原作小説では、剣道とは病であり、魔物であるといっている。剣道が底知れぬ武道であることがわかるのが、研吾と融が雨の中で剣を交える場面だ。
綾野「序盤の剣道場のシーンは暴力ですが、雨の決闘は、お互いが求め合っている。そこには心だとか、考える余地はなく、ただ肉体と肉体がぶつかり合っている。とても本能的。ある種、性的描写のシーンと変わらないと思っています」
村上「決闘のようなケンカです。倒しにいくぞ。負けるかもしれないけど、やらなきゃいけないんだという」
剣によって宿命の対決へと導かれた研吾と融は、互いのなかに何を見出していたのか。2人がたどり着いた答えは、実に普遍的なものだった。
綾野「研吾にとってと融は“生”です。鼓動です。止まっていた心臓が、彼に会ったことで動き出した」
村上「融にとっての研吾は、生きるという“生”。そして、“気づき”だと思います。融は自分が人とは違うということを自覚し、孤独になってしまっていた。でも、矢田部研吾という人に出会ったことで、自分には存在意義があると気づくんです」
綾野「互いに渇望を埋め合っているような関係というのが、正しいのかもしれない」
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