「パリ市庁舎前のキス」ドアノーの孫娘、祖父の偉業をドキュメンタリーで発表
2017年4月30日 09:00
[映画.com ニュース]フランスの国民的写真家ロベール・ドアノーの人生と創作に迫るドキュメンタリー「パリが愛した写真家 ロベール・ドアノー 永遠の3秒」が公開された。本作監督で、誰もがあこがれるパリの庶民の日常を捉えた写真家の孫娘であるクレモンティーヌ・ドルディルが来日し、作品と在りし日の祖父の思い出を語った。
パリの庶民たちの日常をとらえた写真で高い評価を得たドアノー。1950年にアメリカの雑誌「LIFE」の依頼で撮影され、80年代にそのポスターが世界中に広まった、代表作「パリ市庁舎前のキス」の撮影秘話や、当時の資料映像、親交のあった著名人による証言で写真家の素顔を浮かび上がらせる。
ドルディルは本作製作の手法をこう振り返る。「自分でシナリオを作って、それに沿って写真を当てはめていく作業でした。やはり、人々がドアノーには“パリを散歩しながら恋人たちや子供たちの世界を撮っているノンシャランなおじさん”そんなイメージがあると思いますが、祖父は朝から晩まで仕事をしている人でした。そういう本当の姿を知ってほしかったのです」
1950年に米雑誌「LIFE」で有名になった「パリ市庁舎前のキス」。一般のカップルの決定的瞬間ではなく、役者だった2人にそのシーンを演じさせるという撮影秘話が映画では語られている。「演出された写真も、自然に撮った写真もそのクオリティに差はないと思います。ドアノーは同じだけ真剣に向き合っていたからです。写真はいつも鮮度を保てるアートだということを見せたかったのです。例えば、パリのリボリ通りで車の窓越しにキスするカップルの写真があります。祖父はその瞬間を見て、カップルの男性に撮影させてほしいともう一度せがみましたが『彼女は僕の勤務先の社長の娘だから駄目なんだ』と断られ、別のカップルに演じさせたのです。実際のそのシーンを、ドアノーは映画監督のように演出したのです」
偉大な写真家の孫であるドルディル監督が芸術の道に進んだきっかけ、祖父との思い出をこう語る。「私が幼いころから自宅の祖父の周りに芸術家が集まっていたので、その姿を憧れの目で見ていました。写真家になることは考えませんでしたが、祖父と同じような人生を夢見ました。まったく違う道に進むことも難しいと思ったのです。そして今、私も彼のような人生を歩めて幸せです。祖父は我々一族の大黒柱ですし、私が芸術の方向に進むことを望んでいたと思います。祖父は郊外で生まれ、まったくアートととは縁のない環境で育ちました。それを乗り越えたという自負があったと思います。自分の子供や孫にそれを継承できたことを喜んでいると思います。姉も映画の編集者です。私がある程度大人になり、距離ができたから祖父の人生に深くかかわるような作品を作れたと思います」
偉大な写真家の後ろ姿を見て育ち、とりわけ印象に残っている姿を述懐する。「“革命”と言うと大げさな感じになりますが、エレガントな革命や反抗心を忘れない人。サルトルのような行動をおこした人ではありませんし、武器ではなくカメラを選びました。そして何かを告発することに興味があり、いつも拳を振り上げているような感じがありました。エレガントでありながらとても真摯な人でした」
「パリが愛した写真家 ロベール・ドアノー 永遠の3秒」東京都写真美術館ホール、ユーロスペースほかで公開中。