ダルデンヌ兄弟、最新作「午後8時の訪問者」でヨーロッパの現実を表現
2017年4月7日 12:00

[映画.com ニュース] 2度のパルムドールを受賞しているカンヌ映画祭の常連、ベルギーのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟の最新作「午後8時の訪問者」が4月8日から公開される。今作では、フランスの実力派若手女優アデル・エネルが演じる女医が主人公。一人の少女の死にかかわってしまった主人公が、自身の良心や正義と葛藤しながら、事件解決のために動き出す様をミステリータッチで描いた。このほど、来日したダルデンヌ兄弟が作品を語った。
――この物語は何を発端に生まれたのでしょうか。
リュック:「医者という設定から生まれました。命を救うべき人が命を救えなかったというシチュエーションにするために医者を選んだのです」
――劇中で具体的には言及されないものの、ヨーロッパが抱えている移民問題を示唆しているように感じます。
ジャン=ピエール:「この物語はずっと以前からありました。ただ、社会情勢を鑑みて、今撮らねばと思ったのです」
リュック:「数多くの移民が住んでいるのがヨーロッパの現実です。川の近くで女性が死んでいるのはヨーロッパにたどり着けず、地中海で亡くなってしまった人々のメタファーです。ジェニーが閉じた扉はヨーロッパが移民に対して閉ざした扉を意味します。これもまたヨーロッパの現実なのです」
ジャン=ピエール:「これは映画でありフィクションです。現実ではありません。我々が語りたかったのは後悔したジェニーの行動が人々に変化を与える様です。医者として治療する人々や出会う人々に影響を与えていくのです。しかし、ヨーロッパでは移民の受け入れが難しくなってきています。色々な考え方があります。一部では移民をより受け入れようと戦っている人もいる。その一方で受け入れをやめよう、という政治家もいる。『やめよう』という声は強く聞こえがちです」
リュック:「その『もう受け入れたくない』という声のほうがが強く聞こえる、ということがヨーロッパの現状です」
――今回、女性を主人公に据えた理由を教えてください。
リュック:「なぜだかわかりませんが、はじめから女医が主人公だと思っていました。ただ、この映画の中では何度か女性が男性に暴力を受けるシーンがあります。男性が主人公だとそのシーンが成立しません。かといって、そのシーンがほしくて女性にしたわけではないのですが」
ジャン=ピエール:「黒澤明監督の『酔いどれ天使』という医者が主人公の話がありますが、あの主人公が女性だったら、話は変わっていたでしょう」

――ジェニーは優秀な医師ですが、研修医に高圧的に接したり、煙草を吸ったりと矛盾した存在です。
リュック:「完璧でないほうがいいと思うのです。煙草を吸う医者がいてもいい。おそらく彼女も最初は完璧な医者を目指していたと思います。でも、ドアを開けなかったことで変わっていくのです」
――撮影時に心がけていることは?
ジャン=ピエール:「人物とカメラの間にあるものすべてを極力取り除くこと。何を見せないか、を考え、人物に寄り添って追いかけることを心がけています。そうすることで人物が頭に残るのです」
リュック:「例えば、ひとつのショットで見せるもの、見せないものを考えます。見えないものはなにか、観客が考えるように。それでサスペンスが生まれるのです。見てる人が期待するものではない情報を与えて驚かせたいのです。それで観客が思い込んでいたイメージから離れさせるのが狙いです」
――長い期間、仲良く一緒に撮影をする極意はありますか?
リュック:「本当に長いこと一緒に映画を作っています。もう40年になります。ですが、秘訣はありません。ふたりで行う映画作りは白か黒かを決める作業でグレーにしていくことではありません」
ジャン=ピエール:「かといって、完全に理解しあうということではありません。わからないことがいいのです」
リュック:「私たちはよく話し合います。映画についてもめることはありません。それ以外の場面ではぶつかることもありますが(笑)」
(C)LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM – FRANCE 2 CINEMA - VOO et Be tv - RTBF (Television belge)
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