専門家が解説!「人生タクシー」に込められた“イランあるある”とは?
2017年3月29日 15:00

[映画.com ニュース] 第65回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したイラン映画「人生タクシー」のトークイベントが3月28日、都内で行われた。政府への反体制的な活動を理由に、2010年から“20年間の映画監督禁止令”を受けているジャファル・パナヒ監督の最新作。イベントには翻訳家、映画プロデューサーのショーレ・ゴルパリアン氏が登壇し、「今のイランが抱える矛盾を描いている」と語った。
アッバス・キアロスタミ監督の愛弟子で、カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界3大映画祭で受賞歴を誇るパナヒ監督自身がタクシー運転者に扮し、厳しい情報統制下にあるイラン・テヘランで暮らす人々の人生模様をドキュメンタリータッチで描き出した本作。ダッシュボードに置かれたカメラが、強盗と教師、交通事故にあった夫婦、映画監督志望の学生、政府から停職処分を受けた弁護士といった乗客たちの悲喜をとらえ、イラン社会の核心へ迫っていく。
イラン西部ハマダン生まれのゴルパリアン氏は、「イランでは会社帰りのサラリーマンが、自分の車をタクシーにして“お客”を乗せることも。私は日本での生活が長いので、イランでは貸切にしてもらう。道も混雑しているし、タクシーを止めるのも一苦労」と本作の“舞台”となるイランの乗り合いタクシーについて説明。「イラン人はおしゃべりだし、タクシーは内であり外。降りてしまえば、赤の他人でそれっきりだから、政治や社会問題、嫁や姑のグチまで何でもしゃべる」と国民性にも言及した。
また、乗客としてタクシーに乗り込む海賊版レンタルビデオ業者については、「イランではハリウッド映画は映画館で一切上映されないから、海賊版で見るしか方法がない」といい、「まだ編集段階の作品もたくさん出回っている。『タイタニック』は日本でワールドプレミアされたそうですが、私はそれ以前に、イランで見ていた」と“イランあるある”を披露。「今のイランはとても矛盾していて、規制が厳しい一方で、電話1本でDVDや雑誌、酒まで家に届けてくれる」と話していた。
トークイベントには長年、東京フィルメックスのプログラム・ディレクターを務める市山尚三氏が聞き手として登壇し、「色々な世代や立場の乗客を登場させるなど、非常にち密に計算されている」とパナヒ監督の手腕を絶賛。車内で会話劇を繰り広げる“師匠”キアロスタミ監督の「桜桃の味」からの影響を指摘すると、ゴルパリアン氏も「セリフも動きも決まっているフィクションを、ドキュメンタリータッチに見せる手法も、キアロスタミ監督からよく学んでいる」とうなずいていた。
「人生タクシー」は、4月15日から東京・新宿武蔵野館ほか全国で順次公開。
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