地雷撤去に臨む少年兵描いた「ヒトラーの忘れもの」監督、「皆が知るべき物語」と力説
2016年12月16日 17:00
[映画.com ニュース] 海岸線に埋められた約200万個の地雷を、強制的に連行されたドイツ軍の少年兵が撤去する――。ゾッとするような、酷たらしい仕打ちだが、1945年のデンマークで実際に行われていたことだ。同国内でもほとんど知られておらず、半ば歴史の闇に葬り去られようとしていた事実を、マーチン・ピータ・サンフリト監督はあえて、映画「ヒトラーの忘れもの」という形で白日のもとにさらした。来日したサンフリト監督が、作品に込めた思いを語った。
2015年の第28回東京国際映画祭で「地雷と少年兵」のタイトルで出品された。第2次世界大戦終結直後、ナチス・ドイツの占領から解放されたデンマークでは、捕虜のドイツ兵が西海岸の地雷撤去を目的に駆り出されていた。その多くが10代の少年兵であり、満足な訓練もないまま死地へ向かう。少年兵を預かったのは、ドイツ人を心の底から憎むデンマーク軍のラスムスン軍曹(ローラン・モラー)。当初は虐待を繰り返したが、目の前で少年たちが爆死するさまを目の当たりにし、苦悩から逃れられなくなっていく。
美しい海岸で繰り広げられる、未来ある少年たちを死の淵に追いやる蛮行。そして憎悪に支配されていたラスムスンの胸中に、次第に“慈悲深い父親”が芽生えていくドラマ。二律背反が刻印された物語と、背筋が凍るような地雷撤去の臨場感が、観客のみならず映画人の心を震わせ、モラーと少年兵役のルイス・ホフマンが同映画祭の最優秀男優賞を受賞した。
製作開始時は地雷撤去のパイオニアを題材にしていたが、リサーチの過程で少年兵投入の事実を知った。そして西海岸の墓地で、戦争終結後に若くして没したドイツ兵の墓を大量に見つける。深いショックを感じたサンフリト監督は、調査と並行し3年半を費やして脚本を書き上げた。「少年たちも戦時中は悪行を働きましたが、それは大人たちの洗脳の結果。そういう少年たちを罰したいのか。語るべきだと思った。皆が知るべき物語だと思った」。
「デンマークも他の国と同様、自国の良いことを言いたいわけです。ユダヤ人がスウェーデンに逃亡するのを、どれだけ助けたか。しかし同様に、デンマークも暗い歴史を持っています。それを語り、学び、賢くなることが重要だと思ったんです」。作品づくりにおいて、サンフリト監督は「何かを学ぶこと」を重要視している。「私が思うに監督の仕事とは、エンタテインメント以上のものをつくることです。もちろん、純粋な娯楽作品も意義があると思います。しかし私は、楽しく鑑賞したその先に、何かに気づいたり学ぶことこそが重要だと思っています。今回は知られざる暗い歴史があること、そのなかで人間が人間をどう扱うべきなのかを伝えることが第一でした」。
その言葉通り、少年兵の希望とラスムスンの葛藤を通じて根源での人類愛を照射し、豊かな人間賛歌を謳い上げている。「国の暗部を糾弾するためではなく、むしろジレンマを描きたかった。憎悪や、目には目をという復讐はうまくいかないのです。互いに尊重し合うことが重要であり、ミイラ取りがミイラにならないように生きるためには、ということを描いています」と説明する。
そして、ラスムスンと少年たちの擬似親子の関係性もエモーショナルだ。「私の映画には、何かしらの“父親”が出てきます。というのも、私が早くに父を亡くしたため、恋しい気持ちが入ってしまうんです。観客がそれに感情移入してくれたら、『楽しかった』以上の感覚を引き起こすきっかけになるでしょう」。
今作はデンマークのアカデミー賞とされる「ロバート賞」で作品賞を含む最多6部門を受賞したほか、2016年度米アカデミー賞・外国語映画賞のデンマーク代表に選出された。脚光を浴びたサンフリト監督は、ジャレッド・レト、浅野忠信、椎名桔平ら日米豪華キャストが結集した次回作「The Outsider(原題)」を日本で撮影。「今回の作品とはまったく異なる、血みどろで暴力的、同時にポエティックな映画です」と新作の構想を明かした。
「ヒトラーの忘れもの」は、12月17日から公開。
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