大竹しのぶ&豊川悦司があぶり出した、洗練された“大人の寓話”
2016年8月28日 10:00
[映画.com ニュース] キョーレツな個性がぶつかり合う、なんとも魅力的なコンビが誕生した。「後妻業の女」の大竹しのぶと豊川悦司だ。資産家の高齢男性を色香で骨抜きにして金品を狙う後妻業の女・小夜子と、裏で糸を引く結婚相談所の所長・柏木。共に久しぶりとなるテレビドラマの巨匠・鶴橋康夫監督の下で危うい“共犯関係”を築き、人間の欲望の裏に潜む深い業を浮き彫りにするシニカルな喜劇を生み出した。
大竹は実に16年ぶり、豊川も初の映画監督作「愛の流刑地」以来9年ぶりの鶴橋組。原作となる小説「後妻業」を一読した時点で鶴橋監督は、小夜子と柏木には2人を思い描いていたそうだが、これには大竹が異論を挟む。
「原作は70歳近いおばあちゃんだし、なんでだろうと思いました。16年ぶりの映画がこれなの? 失礼な。なんで『愛の流刑地』じゃなかったんだろうって(笑)」
もちろん冗談だろうが、それだけ鶴橋監督に対する信頼がうかがい知れる。脚色の際、ハードボイルド調の小説にコメディ要素をふんだんに盛り込んだことで、大竹も得心がいったようだ。
「人間の悪、欲というものの世界にちょっと笑いを入れて突っ走るというのが面白いと思いました。悪であってもちょっとコメディだったり、おしゃれだったりという独特な世界観で描くのが鶴橋さんなので楽しみでしたね。普通、病院に殺しに行くのに、歌いながら入らないし、あっ、間違えたって隣の(ベッドの)カーテンを開けないですよね」
そう、2人の行為は明らかに犯罪である。小夜子は結婚した相手に公正証書を書かせておき、貞淑な妻を装いながらいざ夫が他界すると「遺産はすべて私が相続します」と言ってのけるしたたかさ。共感は得にくいはずだが、どこか憎めないキャラクターだ。
大竹「何が起こっても、柏木がどうしようって慌てても、悪いことをしていないという絶対の自信と、自分は幸せになるというポジティブな考え方はすごいなって思います」
豊川「そのあたりは男と女の性の違いを、的確に2人の関係の中に落とし込んでいて面白いなと思います。結局、男はあたふたして女はどっしり構えるという。普通に考えると陰惨な話だけれど、そこを笑えるようなものにしている気がするんです」
その柏木は、いかにもうさんくさい大阪のおっちゃん然として異彩を放つ。小夜子をうまく操っているようで、女性には滅法弱くボロを出すタイプ。はっきり言ってチャラいが、豊川はその生っぽさを意識したという。
「あくまで彼の中では大マジメというのがすごく大事だったと思うんです。はたから見ればエッて思うけれど、そういうところが、おっさんだけれどかわいく滑稽に見えないかなという感じですね」
2人は新藤兼人監督の「石内尋常高等小学校 花は散れども」「一枚のハガキ」に続く共演で気心が知れている。まさにあうんの呼吸で丁々発止のやり取りを繰り広げていく。
大竹「お互いにすごく信頼し合っていると思っているので、何も言わないでも分かる。ああ、こう来るの? じゃあ私はこういきたいという感じで自由に芝居をしていました。ああしよう、こうしようというのは一切なかった」
豊川「大竹さんとご一緒すると、芝居することがすごく楽しいんです。他の現場じゃそこまで感じることは滅多にないんですけれど、芝居ってこんなに楽しいんだって感覚があるんですよ」
大人の観賞に耐えうる日本映画が少なくなって久しい。だが、強固な信頼関係に裏打ちされた大竹と豊川がけん引する「後妻業の女」は、人間誰しもが持つ性を笑いに包んであぶり出す洗練された“大人の寓話(ぐうわ)”となった。
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