綾野剛×白石和彌監督「日本で一番悪い奴ら」で抱いたアウトサイダーへの“シンパシー”
2016年6月26日 07:30
[映画.com ニュース] 綾野剛が主演し、白石和彌監督が2002年に北海道警察で発覚した不祥事“稲葉事件”を題材に描いた映画「日本で一番悪い奴ら」。タッグを切望し続けていた2人の胸には、クランクイン前から共通の思いがあった。それは、アウトサイダーとしての主人公・諸星要一への「シンパシー」にほかならなかった。
北海道警察に奉職した刑事・諸星(綾野)が、成果を得たい一心で裏社会に飛び込み、正義感ゆえに覚せい剤密輸などの悪事に手を染めていく過程をエネルギッシュな演出で紡ぐ。脚本家・池上純哉が、稲葉事件の中心人物である元警部・稲葉圭昭氏が出版した暴露本を持ち寄ったことが、今作の始まりだった。白石監督は稲葉氏の半生を読み、「考えられないほどの面白さ」に度肝を抜かれた。「なおかつシンパシーを感じ、稲葉さんの気持ちが手に取るようにわかったんです」と言葉に力を込めると、綾野も大きくうなずいた。
白石監督「僕は学生あがりですぐに映画界に入り、そのなかで本当はやってはいけない撮影もしました。しかし映画の歴史は、連綿とそれをやり続けています。助監督の僕らは監督のやりたがっていることを、多少の危険も辞さずに全部やり、場合によっては捕まってもいいという勢いでやっていました。外から見ると異常なことですが、僕らはそうして映画を作ってきたわけです。その点が、すごく稲葉さんとシンクロしたんです」
綾野「つい最近も、別作品で許可が下りないところで撮影しましたが、同じ気持ちでやっています」
悪を叩き世を良くするために身を投げうち、裏社会の底を這いずり回ることになった稲葉氏。皮肉な生き様が、映画作りに魂を捧げ危険を犯してきた2人の共感を呼び起こし、そのたぎる思いが稲葉氏をモデルとする諸星に反映された。綾野は、「シンパシーを基に、白石組は映画を作っていました」と振り返り、「諸星という男は白石組が産み落としたと思っています。自分ひとりで作ったとはこれっぽっちも思っていない。役者として、生きた実感を得ました」と目を細める。
諸星の26年間を描出するうえで、ある約束があったという。それは、「人生に台本はなく、翌日に何が起こるかわからない。だから、先々の計算はやめる。現場の目の前のことを全力でやる」ということ。2人は、“瞬間”を生きた撮影に思いを馳せた。
白石監督「登場人物全員、目の前で起きていることに全力で対応し、常にベターな選択をしているんです。それがたまたま間違った方向に行ってしまうという物語。そこには、嘘をつかないようにやっていきました」
綾野「未来予想図がそもそも愚問だったわけです。1日1日、その瞬間を燃え上がるということに、生きがいを感じていました」
インタビューの最後、綾野は諸星をとらえたポスターに目を向けながら、「限りなく純粋であるところが、僕と非常に共通している部分です。諸星をとても愛しています。不謹慎かもしれませんが、この作品を見た後に思ったことは『諸星は幸せだった』。それが何よりも救いでした」と打ち明けた。そして、「構えて見る必要はなく、良いことと悪いこと、嘘と本当は、自分が持つエンジンで見てもらいたい。『笑っていい』という意識で入ると、この作品は強度を増します。ぜひ声を出して笑って見て欲しいです」と観客にメッセージを託した。正義の反対は悪ではなく、また別の正義だ。諸星が体現した正義とその結末を、見届けよう。