アカデミー賞で話題の人種問題、フランスでは昨今のヒット作のテーマに
2016年2月27日 11:00

[映画.com ニュース]スパイク・リーのアカデミー賞授賞式ボイコット発言を発端に、映画界は差別ネタに対して敏感になっている。フランスでも同様だ。オマール・シーがこれに賛同したり、日頃から歯に衣を着せない物言いで知られるジュリー・デルピーが、「ハリウッドでは、アフリカン・アメリカンよりも女性でいる方がさらに風当たりが強い」と発言し、波紋を起こしたりもした。フランス版アカデミー賞と言われるセザール賞では、2012年に「最強のふたり」でシーが主演男優賞を受賞するまで、黒人が賞を手にすることはなかった。
もっとも、ハリウッドに比べたらフランスは最近変わりつつあるかもしれない。特に2014年に人種ネタを扱ったコメディ「最高の花婿」(3月19日日本公開)が年間ベスト1の大ヒットを放ったことで、少なくともタブーという感覚はなくなってきたようだ。言葉は悪いが、ビジネスとして成功するならタブーにこだわっていられないということもあるかもしれない。「最高の花婿」では、南仏のブルジョワ家庭の4人姉妹がそれぞれアラブ人、ユダヤ人、中国人、黒人と結婚する。ひとりぐらいはカトリックの白人婿を持ちたいと思っていた保守的な両親は最後まで夢叶わず、といった物語で、観客の先入観を逆手にとるかのような人種ネタやギャグが連発される。あまりにあっけらかんとしているので思わず笑ってしまうと同時に、フランスで生活をしている身にとっては、「実際にこういうこと、あるよな」というシチュエーションに膝を叩いてしまう。差別というよりは無知ゆえの偏ったイメージといったところか。自伝的とは言わないにしても、自身も非白人と結婚した監督のフィリップ・ドゥ・ショーブロンの体験が基になっているという。
さらにこの2月には、やはりオマール・シー主演で、フランスで初めて成功した19世紀の実在の黒人道化師を描いた「Chocolat」が公開され、話題を呼んでいる。アフリカからキューバに売られた奴隷の両親のもとに育ち、やがてフランスに渡りサーカスで働いていた主人公が、白人道化師のフーティに見いだされ、ショコラという芸名でコンビを組み、一躍人気を得る。だが、道化師から俳優としてひとり立ちしようとしたショコラはそこで社会の壁に阻まれ、やがて忘れ去られて非業の死を遂げる。自分を笑いのネタにする道化としてなら活躍できても、白人同様アーティストとして人々の称賛を得ようとした途端にシビアな現実が待っていというわけだ。ジョセフィン・ベーカーよりもさらに早く世に出たショコラにとって、それはあまりに性急な望みだったと言えよう。
シーはこの役について、「ショコラのことはまったく知らなかったけれど、彼の波乱に富んだ生涯を知って心を動かされた。あの時代に彼が成し遂げたことは、いかに大変で勇気がいることだったかは想像に難くない。彼は真のアーティストだった。そしてレイシズムの犠牲者でもある」と解説する。監督のロシュディ・ゼムはこう語る。「ショコラの運命を通して本作は、フランスの歴史を描いてもいる。彼はいきなり時の人となり、時代とともに忘れ去られた。彼のような犠牲者は少なくなかったはずだ」
俳優でもある50歳のゼム自身、モロッコからの移民2世であり、非白人俳優として成功した最初の世代に属する。実際彼の功績があってこそ、サミ・ブアジラ、レダ・カテブ、タハール・ラヒムなど、後続のアフリカ、アラブ系俳優が世に出たといっても過言ではない。「僕がこの仕事を始めた時代は、移民が映画スターと一緒の場にいるなんて考えられなかった。20年ぐらいのあいだずっと、いつか出て行けと言われるんじゃないかという感覚があったよ」
それだけに、本作では運命に翻弄されるショコラの悲哀が色濃く出ている。ちなみにショコラのパートナー、フーティを演じるのは、チャップリンの孫で大道芸に長け、舞台俳優として名高いジェームズ・ティエレ。彼とシーの絶妙なコンビが、本作をより面白くしている。公開2週目ですでに動員100万人を超えているだけに、今後さらに数字を伸ばすに違いない。本作の成功の度合いによっては、人種のテーマがフランス映画界でよりポピュラーになるかもしれない。それが果たして人々のメンタリティにどれほど影響を及ぼすかはともかく、こうした作品や役柄が増えるだけでも進歩と言えるのではないか。(佐藤久理子)
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