「ベテラン」リュ・スンワン監督×「るろ剣」谷垣健治、アクション談義で共鳴!

2015年12月11日 17:00


熱い対談を繰り広げたリュ・スンワン監督(左)、谷垣健治
熱い対談を繰り広げたリュ・スンワン監督(左)、谷垣健治

[映画.com ニュース]韓国で歴代3位の大ヒットを記録したアクション映画「ベテラン」のリュ・スンワン監督が来日を果たした。同作は、ファン・ジョンミン演じる武闘派のベテラン刑事ソ・ドチョルが、韓国最大のタブーとされる“財閥の横暴”に立ち向かう姿を描く。社会派のテーマを扱いながらも、最大の魅力はユーモアあふれる掛け合いと、圧巻のアクションの数々だ。「ベテラン」をはじめ、スンワン監督作品に感銘を受けたというアクション監督・谷垣健治との対談が実現した。

生き残るための3つの取引」「ベルリンファイル」などで見せた手腕から、韓国No.1のアクション監督とも呼ばれるスンワン監督。一方、22歳で香港に単身乗り込み、ドニー・イェンらのもとでアクションを学んだ谷垣は、実写版「るろうに剣心」3部作に参加し、日本のアクション映画に新たな息吹を注ぎ込んだ。同世代の2人は互いに「最も会いたかった人」と称え合い、熱気と興奮のこもったトークを繰り広げた。

■「ベテラン」の魅力は“熱くなれる勧善懲悪”

スンワン:ドニー・イェンとは今でもお仕事を?

谷垣:今、彼はイギリスで「スター・ウォーズ」のスピンオフ作品をやっています。だから、僕はちょっとだけ自由時間があるんです。

スンワン:(笑いながら)少し前に、イェンさんのメイキング映像を見ました。そこでも大活躍をしていましたね。

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谷垣:彼とは20年以上一緒にやっているんですよ。もともと僕は香港映画がすごく好きで、一方当時の日本のアクション映画界は本当に何もなくて。砂漠のようなものでした(笑)。1993年に自分で香港に行き、スタントマンになって、その時にドニーと知り合いました。彼はすごく人使いが荒くて、カメラマン、編集、助監督とか、いろんなことをやりました。僕の映画知識の90%は彼から教えてもらったので、人使いが荒くて今は感謝しています(笑)。

スンワン:どうりで、「るろうに剣心」のアクションを見ると、日本の伝統的なアクションとはまた違うなと。活力があると感じたので、その理由がわかりました。

谷垣:スンワン監督の作品も、エネルギーがガッとこもっていますよね。特に「ベテラン」は、最初はチームワークで笑わせてもらって、財閥の御曹司(ユ・アイン扮する悪役チョ・テオ)には芝居だってわかってても「お前、この野郎~!」と思ってしまって。久しぶりにカメラアングルとか全く気にせずに、「おらー、やれー!」という感じになれて、監督にうまいこと感情をコントロールされました。熱くなれる映画ですごく面白かったです。

■優れたアクション俳優の条件は「ダンス」にあり?

スンワン:谷垣さんと私が似ているところでは、私も香港のアクション映画が大好きです。韓国の1980年代は、アクション映画の暗黒期でした。それが不満で、なぜ韓国では面白いアクション映画が作れないんだと思っていました。

谷垣:たしかにその当時(80年代)、韓国映画を見る機会がすごく少なかったですが、「シュリ」あたりから変わってきたような気がします。香港のアクション監督たちがこう言うんですよ。「俺らは、タイのアクション映画は怖くないんだ。昔自分たちがやってたことだから。一番怖いのは韓国だ。映画として優れている」。香港映画の影響を受けながらも、オリジナリティのある“韓国のアクション”ができているからで、僕もそれはすごく感じます。

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スンワン:「ベテラン」を見てお気づきかと思いますが、かなりジャッキー・チェンの影響を受けています。でも、韓国にはジャッキー・チェンドニー・イェンのようなアクション俳優がいませんでした。俳優が習ってアクションをしていたんです。だから、アクションのスタイルが俳優の中で確立されていたのではなく、監督のスタイルがそこに表れてくるんです。「ベテラン」の(主演)ファン・ジョンミンや、私の弟でよく一緒に仕事をするリュ・スンボムの共通点は、ダンスが上手ということ。ジョンミンはミュージカル出身で、タップダンスなどダンスの能力に優れています。アクションを表現する時も、楽しいリズムを刻んでくれるんです。

谷垣:すごくわかる。「るろうに剣心」の主役(佐藤健)もブレイクダンスをしていて、やっぱり飲みこみがすごく早い。ダンスの表現力、リズム感はアクションをやる上で重要な要素だと思います。そして何より「良い役者」であるということが大事ですね。

■アクションは人物から発生するもの

スンワン:ファン・ジョンミンユ・アインは武術を習ったことがない俳優だったので、「ベテラン」のアクションを撮る時に戦略を変えたところがあります。最初は、2人の近接した乱打戦を描こうと思っていましたが、いい画が撮れなかったので動線を大きくとることにしました。殴ったらかなり遠くまで飛んで、追っていくという方向です。映画を作るたびに、私はひとつのスタイルにこだわらずに、「この映画自体のスタイルは何か」と考えるようにしています。アクションは人物から出るものだと思っていて、(物語の)人物がどんな行動をするかによって、そのスタイルを決めていくことになります。

谷垣:わかります。スンワン監督の映画は、キャラクターから発進していますよね。

スンワン:「ベテラン」では、武術監督のチョン・ドゥホンがいいアイデアを出してくれました。ジョンミン演じるドチョルと、ユ・アイン演じるテオが最後に対決するシーンで、ドチョルはビンタをするんです。おそらくドニー・イェン(の作品)であれば、かっこよくジャンプキックでしめるのではないでしょうか。しかしあの状況の感情だったら、ビンタで倒すというのが正解だと思います。それは、アクションのテクニックを超えるものでしょう。

谷垣:すごく印象に残ります。「ああ、そうきたか~」っていうね。ラストで飛び蹴りというのは、何千本もの映画で見てきていますからね。

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■アクション映画の今後の展望は?キーワードは「アジアの映画人の交流」

スンワン:韓国の製作環境は保守的になっている部分があり、最近は外国との合作もあまりないんです。いずれにしても、私たちはハリウッドの規模をまねすることはできないので、アジアの映画人同士が活発に交流していけば、楽しい作品ができると思っています。

谷垣:日本の環境も相変わらず保守的ですが、「るろうに剣心」でひとつ良かったのは、アクションをやりたがる日本の役者が増えてきたということ。「アジアの映画人同士」でいうと、僕は現在の活動の半分が香港や中国になっていますし、韓国の俳優でも中国映画に出ていたりする。撮影現場ではいろんな国の人間が共同作業をして、1本の作品に取り組むということがもう当たり前な時代です。韓国からも呼んで欲しいと思っています(笑)。今は本当に、ジャッキー・チェンを見て育った人たちが、映画を自分で撮る時期になっていると思っていて、事実、僕がそう。スンワン監督の世代もそうだと思うし、タイのトニー・ジャーとか、インドネシアの「ザ・レイド」の製作陣もそういうのを見て育ってきている。国は違うけど、同じものを食って、同じものを見てきた気がします。

スンワン監督と谷垣のトークはとどまることを知らず、2人がタッグを組んだ映画が実現するかもしれないと予感させられる、熱い対談だった。「ベテラン」は、12月12日から東京・シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

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