「さようなら」深田晃司監督&新井浩文が明かす、作り手としての強烈な自負
2015年11月20日 12:00
劇団・青年団を主宰する平田オリザ氏が、アンドロイド研究の第一人者である石黒浩氏(大阪大学教授・ATR石黒浩特別研究所客員所長)と共同で製作した演劇作品を映画化。舞台は、原子力発電施設の爆発によって国土のほとんどが放射性物質に汚染された近未来の日本。国民が次々に国外へ避難していくなか、南アフリカからの難民である女性・ターニャ(ブライアリー・ロング)と、その生活をサポートするアンドロイドのレオナは町に取り残され、緩やかに最期の時へと向かっていく。レオナ役には本物のアンドロイド「ジェミノイドF」が使用されている。
「歓待」(2010)、「ほとりの朔子」(13)などで世界的に評価される深田監督は「演劇版の持つ濃厚な死のにおいにひきつけられたんです」と映画化を熱望した理由を語る。本作では長回しを用い、ターニャの死への旅路を真正面から見つめているが、ターニャの恋人・敏志を演じた新井も「監督は、“画”にこだわりを持っている。死に向かっていくシーンには、見ているこっちもすごくぐっときました」と明かし、「(出演に)迷いはなかった」と深田監督の手腕を称えた。
新井の出演作「BOX 袴田事件 命とは」(10)がお気に入りだと語る深田監督は、その魅力を「何を考えているのか、次どう動くのかがわからないところ。考えが手に取るようにわかってしまう役者さんの演技は浅いんです」と信頼を寄せる。新井は、照れくさそうな様子を見せつつも、自身の確固たる演技メソッドに言及。「台本を読んで流れを把握し、その後忘れるという作業をするんです。最終的には翌日に撮るシーンの自分のセリフだけを入れるようにして、相手のセリフは固めない。語尾が変わったりすると印象が変わってしまうからです。うちは現場の空気を大事にしていて、日常会話になるべく近づけたいんです」。
フラットな姿勢を心がける新井だからこそ、「こちらのセリフにあわせてプログラミングをする人がいて、そうしたらジェミノイドFがセリフを言うというやり方だった」と細かな間に至るまできっちりと定められていたという、システマチックなアンドロイドとの撮影も「人とやるのと変わらない」。「台本の通りに演じれば、自然に見えてくる。深田監督はビジョンが明確にあるからやりやすかった」と“職業俳優”としての一面を見せる一方、「人間を描く上で、(アンドロイドは)俳優には勝てない」とプライドをのぞかせた。
対する深田監督は「僕は人間の中にアンドロイド性を見出しているんです。両者の差が性能によるものだとして、じゃあアンドロイドの性能が上がったら? 本作は、“人間とは何なのか”を考えられる素材になったんじゃないかな」と投げかける。自身の映画作りにおいては「共感できる人物を描こうとしていない」と明かし「映画は理想を描くものではなく、人間の弱さに寄り添えるもの。それぞれに多様な価値観を持っているなかで、自分とは違う人とぶつかり合う。それが生きるということの本質。僕はそういう気持ちで映画を作っています」とその作家性をあらわにしていた。
「さようなら」は、11月21日から全国公開。
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