紀里谷和明監督「ラスト・ナイツ」で提示する物づくりの可能性と使命
2015年11月13日 15:00
[映画.com ニュース] 「CASSHERN」「GOEMON」と独特の映像美で、既成概念にとらわれない世界を構築してきた紀里谷和明。名優クライブ・オーウェン、モーガン・フリーマンらを迎え、5年を費やし完成させたハリウッドデビュー作「ラスト・ナイツ」を語る言葉には、「可能性」「自由」というキーワードがちりばめられていた。紀里谷監督が今、世界に向け発信するものとは。
「情報についていくのに精一杯で、多くの人が大事なものを忘れている時代だと思うんです」。そんな思いを抱く紀里谷監督のもとに本作の脚本が届き、「忠臣蔵」をモチーフに「正義とは何か」を描いたドラマが響いた。「今の世の中は不条理の固まりで、いろいろなところで不平等がある。それに対し自分たちが何をするのか、どう向き合うのかということはすごく重要だと思うんです。この映画の主人公たちは不条理、不平等に対し、自分たちの心の声を聞いて、正義とは何かを考え、行動に移しています。武士道や騎士道は言い方が違っても世界共通の考え方で、すべてを失ってでも正義とは何かを問い続ける行為なのだと思います。とても重要なことだし、今とても求められていることなのではないでしょうか」
そんな紀里谷監督のもとオーウェン、フリーマンをはじめ伊原剛志、ペイマン・モアディ、アン・ソンギら各国から実力派が結集。「人間はそもそも違いなんてなく、国や人種は存在しなかったのに、自分たちで分けてしまった。その不条理に違和感を覚えるんです。それをこういうキャストで表現したかった」と国境を超えたキャスティングが実現した。
「邦画・洋画というカテゴリーも関係ない。カテゴリー分けを打破したい」と熱を込め、「『ラスト・ナイツ』では、こういうことができるんじゃないかということを見せたかったんです。中国の役者がリア王を演じたり、イギリス人が織田信長として日本映画に出られる可能性もある。物作りをしている人間からするとその自由さが非常に重要で、同時にその壁を突破したところを提示できるんです」。常識という枠に縛られている現代では、「可能性を提示していかないから作り手も悪いと思うんです。そこを打破していくのが芸術家の使命で、新しい可能性をどんどん提示していかなければいけないと思います」
物語は、架空の封建社会を舞台に、権力に執心する悪徳大臣、主君に忠誠を誓った高潔な騎士らがぶつかり合う。「今まで作った3作品すべて、国も時代も特定していません。この仕事をする最大の武器は、自由であることだと思っています。作り手として自由でいられる立ち位置をもらっているので、作品によって見る人が人種差別や偏見から自由になってほしい。偏見は他人の自由も奪ってしまいます」
エネルギーに満ちた映像で見せた「CASSHERN」「GOEMON」から一変し、本作は自然光を重視した静謐で美しい絵画的表現で、騎士たちの魂を映し出す。しかし表現は違えど、紀里谷作品の根幹にあるものは「愛」だ。
「人間みんな、愛が命題だと思うんです。一生懸命仕事をしてお金を稼ぐことは家族に対する愛かもしれないし、結婚も愛がほしいし与えたいということかもしれない。愛がテーマだということは、大昔から変わらないんですよね。ただ、どうしてもみんな愛情表現の形にとらわれてしまう。でも、そうじゃないと思う。僕はそういうことを表現できる立ち位置にいさせてもらっているので、しっかりやらないといけないと感じます」
映像、写真と作品を残すだけでなく、ソーシャルネットワーク「FREEWORLD」を主催するなど、精力的に活動している。紀里谷監督の行動原理を紐解くキーワードは、ストレートに「つながりたい」。「子どもの頃からある欲求で、傷つくこともあるけれど、人間はそもそもがつながりたいと思う生き物なんです。きずなというような大層なものではなく、そこで理解が発生するかどうかも関係なく、ただつながるという行為なんだと思う。人間を突き動かしているものであって、僕はそこを研ぎ澄まして見つめているだけ。時々いやになることもありますよ(笑)。でも、TwitterやFacebookもつながりたいという衝動でやっているだけなんです」
「何かを感じてもらいたい」という思いを形にしている紀里谷監督。「この前、三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEのPVを作りましたが、それを見た人が泣いたり何かを感じてくれればそれでハッピー。アングルや形はどうでもよくて、それは映画でも変わりません。若い頃はエゴもいっぱいあったけれど、やっていくうちに壁にぶつかってしまうんです。ある程度のところで自分で自分の作品を好きになれなくなって、苦しんでしまう。人生も同じで、『これを手に入れれば幸せになれる』『結婚したら幸せになれる』と追いかけてしまうけれど、『そもそも何がしたいのか』『どうありたいのか』という質問がぽっかり抜け落ちちゃっている。映画も写真も、『本当に好きなものはなんですか』『何を感じるんですか』『何を感じてもらいたいんですか』ということに正直でいることなんだと思います」
紀里谷監督は、15歳で単身アメリカに渡り、手探りで道を切り開いてきた。「どこまで行っても何か違うなって思っちゃう自分がいた」と自ら苦しんだ体験を経て、自分と向き合うことにたどり着く。「今でもそういうところがあるし一瞬では変わらないけれど、それだったらどうするのか。もちろん100%にはできない。だからつらくて苦しい。でも、それが人生だと思います。『ラスト・ナイツ』の登場人物も同じで、誰かへの愛のため忠義を守るけれど、そこには苦しみがいっぱいある。みんなが理想を持っているけれど、その通りにはならない。その中で自分はどうするのか。復しゅう劇ではあるけれど、主人公の復しゅうというよりも自分との向き合い方、自分が自分を愛せるのかというシンプルな話なんです」
「ラスト・ナイツ」は、11月14日から全国で公開。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。