悪役演じたヒュー・ジャックマンが語る“人生を幸せにするもの”
2015年11月2日 23:15

[映画.com ニュース] マーベルヒーローから愛にあふれた父親役まで、幅広く演じ分ける確かな技量と、その人柄の良さで人気を博すヒュー・ジャックマンが、ファンタジー超大作「PAN ネバーランド、夢のはじまり」で悪役・黒ひげを演じた。来日してインタビューに応じたジャックマンが、悪役を通して“人生を幸せにするもの”とは何かを語った。(取材・文/編集部)
今作は、誰もが知る「ピーターパン」の前日譚を描くオリジナルストーリー。英ロンドンの孤児院に暮らす少年ピーターは、隠されていた母親の手紙を見つけたことをきっかけに、ネバーランドに旅立ち、若き日のフック船長やタイガー・リリーと出会う。美しいネバーランドを牛耳る海賊・黒ひげが、永遠の命を手に入れるため妖精の国を襲うという企みを知ったピーターは、フックやタイガー・リリーとともに戦うとこを決意するが、黒ひげとピーターの母親には悲しい過去があった。
この世のすべてを手に入れようと必死になる黒ひげに、ジャックマンは同情を示す。「黒ひげの心は悲しいんだよ。人生をかけて彼を幸せにしてくれるものを得ようとしているんだけれど、それはかなわなかった。人は権力やお金が人生を幸せなものにしてくれると思っている節がある。でもそれは違う。人生を幸せなものにしてくれるのは愛なんだ。黒ひげは愛を得たことがなくて、いつも孤独で寂しい男だ」
ネバーランドにやって来た当初のピーターは特別な少年ではなかったが、ひょんなことから空を飛ぶ能力が開花する。「空を飛ぶ少年が妖精たちの救世主としてお前を殺しにくる」と予言を受けていた黒ひげは、救世主の条件を満たすピーターと対峙する。このシーンをジャックマンは、「黒ひげにとって複雑な瞬間にしようとした」といい、悪役らしからぬ繊細な演技をみせる。
「おそらくあの瞬間は黒ひげの人生において、最も恐れていた瞬間だった。でも例えば、人は家を建てたり、車を買ったり、出世したりすることに人生を捧げているけれど、それを成し遂げても幸せと感じられずに空しくなると、もうこんなものいらないと思う瞬間があるよね。それって最悪だよ。黒ひげも同じで、ネバーランドのすべてを手に入れたけれど、こんな生き方をやめたいと思っていたかもしれない。もしかしたらピーターに殺されることで、『この子が自分をすべての悲しみから自由にしてくれる』と思ったのではないかと解釈しているよ」
しかし、「そんな繊細な描写は、ほとんどの子どもには伝わらないんだ(笑)」と残念そうに肩をすくめ、「それが(子どもが見る)ファンタジー映画で悪役を演じる上でのチャレンジだね」と俳優としての探究心を明かす。「子どもには黒ひげを“何をしでかすか分からない奴”だと思って見て欲しい。魅力的に見える瞬間があったかと思えば、野心的な瞬間もあるし、強く自己顕示することもある。それなのに憂うつだったりね。それに、黒ひげはピーターに恐ろしいことをする。“何をしでかすか分からない”ということが、子どもたちをぎょっとさせるんじゃないかな」
終始笑顔を絶やさず、時には劇中歌を口ずさんでインタビューに応じるジャックマンは、黒ひげとは正反対の“Mr.ナイスガイ”。共演したルーニー・マーラが「黒ひげは海賊の中でもいちばん卑劣で嫌なやつ。でもヒューほどいい人はいないわ」と断言するのも納得だ。そんなジャックマンが、悪役を演じるのはどのような気分なのだろうか。
「誰だって誰にでもなれると思うんだ。俳優として特にそう信じなくちゃね。人生において、見せかけの自分を作っていくけれど、ひと皮剥けば皆持っているものは同じなんだと思う」と真摯な眼差しを向ける。俳優として役作りをする上で“人生を幸せにするものは愛”という確固たる信念をうかがわせたジャックマンは、悪役を演じて得た実感を悲しい眼差しで語った。
「ストレスとプレッシャーに押しつぶされそうになると人は変わるんだ。だから極端なことに走る人がいる。現実世界にそういう人がいるということは興味深く、また切なくて心を引き裂くよ」
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