劇場公開日 2015年10月31日

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PAN ネバーランド、夢のはじまり : 映画評論・批評

2015年10月27日更新

2015年10月31日よりTOHOシネマズ新宿ほかにてロードショー

誰もが知る児童文学のヒーロー。その前日譚を描いた奇想天外ファンタジー

ジョー・ライト監督の映画はいつも、観客と共にフワリと境界を飛び越える。クラシックな原作を瑞々しく生まれ変わらせた「プライドと偏見」(05)も鮮烈だったし、フィクションの構造を巧みに活かした「つぐない」(07)もこれまでにない感動へ導いてくれた。他にも文芸から現代ドラマ、それにアクションなど様々なジャンルを横断しながら、アッと驚かせる手法で観客を魅了し続けるこの名手。「ピーター・パン」の前日譚を描く本作では、彼のイマジネーションがキャリア最大級の規模となって炸裂している。

主人公はロンドンの孤児院で暮らす少年ピーター。いつかママが迎えにきてくれると固く信じる彼には、まだ特殊な能力などひとつも見当たらない。そんな彼がいかにしてネバーランドに舞い降り、不思議な力を手にすることになるのか。原作者J・M・バリーの著書にあるヒントをつなぎ合わせながら、ライト監督はこの「エピソード1」の物語を躍動感たっぷりに描き出す。

いざ本編に足を踏み入れれば、そこは楽しみでいっぱいだ。孤児院のベッドで眠る子供らが次から次にさらわれていくシーンはドキドキさせられるし、また、ロンドン上空を旋回する海賊船が大気圏を突き抜け、乗員の身体をフワリと浮かび上がらせる描写には3Dならでは面白さがある。

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とりわけ注目なのは“黒ひげ”(ヒュー・ジャックマン)の登場シーンだろう。おびただしい人々がニルヴァーナ(!)の名曲を熱唱し、まるで壮大なロック・ミュージカルでも開演したかのようなボルテージの高さがスクリーンを席巻する。こんな奇想天外な演出をぶち上げられるのも、セオリーに囚われない発想力あってこそ。さらにピーターと一緒に冒険に身をさらす相棒が、フック船長(ギャレット・ヘドランド)というのもひねりが効いている。

いつしか少年はヒーローとなる。クライマックスに向けてどんどん鮮やかになる世界観。と同時に、胸の高まりも、心のつかえも、全てが穏やかで優しい余韻となって昇華されていくのを感じた。我々はまたしても映画と共に境界を越え、ジョー・ライトの魔法に触れる。これはまさしく子供から大人まで安心して楽しめる唯一無二のファンタジーと言えよう。

牛津厚信

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