「攻殻」25周年インタビュー 神山健治監督「タチコマは『攻殻S.A.C.』のテーマを体現したキャラクター」
2015年10月12日 10:10
[映画.com ニュース] 「攻殻機動隊」25周年を記念し、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」(以下「S.A.C.」)シリーズを手がけた神山健治監督に話を聞いた。「S.A.C.」シリーズは初放送から丸13年が経った今でも高い人気を誇り、12月24日にはブルーレイボックス特装限定版の再リリースも決定している。神山監督が、テレビシリーズで「攻殻」を作るためにどんな工夫をこらしたのかを語った。
神山監督が「S.A.C.」のオファーを受けたのは、1999年の暮れのこと。当時、別の企画をProduction I.Gに提出していた神山監督は、石川光久社長から「テレビシリーズで『攻殻』を作ったらどうか」と提案され快諾する。その理由は、「『攻殻』はテレビシリーズに向いている」と思ったからだという。
「『攻殻機動隊』はベースの設定がしっかりとしていて、幅広いストーリーを内包していけそうだと思ったんです。僕自身のことでいうと、まだ30代だったので、チャレンジしてみたいことがたくさんあった。テレビシリーズなら色々なことが試せるという魅力がありました」
「S.A.C.」の魅力は、緻密に構成された物語。各話のストーリーと並行しながら、シリーズ全体を貫く「笑い男」事件が描かれる。こうした構成になったのは、原作者である士郎正宗氏からのアドバイスがあったからだという。
「士郎先生から『今の海外ドラマは脚本がすごくしっかりしているので参考になるのでは』というお話をいただいたんです。シリーズを通して1本大きな話がありながら、各話1本だけ見ても面白いというのはパッケージとして良いなと思いました。そのためには、やっぱり脚本をしっかり固めないと難しいんじゃないかと思っていました」
「S.A.C.」では神山監督を中心とした脚本チームが結成され、シナリオ作成のための合宿が行われた。これらの試みは、「自分が監督をするときには、文芸の部分を一度整備し直したい」という考えの実践でもあった。
「僕が監督になった15年くらい前は、ストーリーや脚本というよりも、ビジュアル主導でアニメが作られがちな時期だったと思います。宮崎駿監督があまりにも素晴らしい絵コンテを描かれることもあって、アニメはひとりの人間が絵コンテで設計図を作るべきだという考え方が僕らの世代には根強くあって。でも、それはなかなかできることではないんですよね。テレビシリーズであればなおさらで、絵コンテではトライ&エラーができないんです」
押井監督の劇場2作と「S.A.C.」の大きな違いは、タチコマの存在の有無だ。士郎氏からの提案で新しいキャラクターとして登場することになったが、制作的にはI.G社内で3DCGのチームが育っていたことも大きかった。
「タチコマには、現在オレンジ代表の井野元(英二)さんが初期の段階から入っていただけたんですよ。自動車やヘリコプターも3DCGで制作して、作画の戦力が足りない部分を補完してもらえました」
タチコマはコメディリリーフとしてだけでなく、作劇上も大きな役割を果たしている。「S.A.C.」および続編「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」の終盤で彼らがみせる行動に胸打たれた人も多いはずだ。
「タチコマは、『攻殻S.A.C.』がもっているテーマを体現したキャラクターだと思うんです。AIであるタチコマたちが人間に近づいていく一方、電脳化した人間がネットワークにアクセスすることで人間性のようなものを失っていく。そうした対比を描けるんじゃないかなと思っていました」
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