「アクト・オブ・キリング」に続く衝撃作「ルック・オブ・サイレンス」虐殺加害者、被害者の両側を映した監督に聞く
2015年7月3日 15:30

[映画.com ニュース]1960年代のインドネシアで密かに行われた大虐殺の加害者に、当時自身が行った残虐な行為を演じさせ、世界に衝撃を与えたドキュメンタリー「アクト・オブ・キリング」。7月4日公開する新作「ルック・オブ・サイレンス」は、前作と対をなす作品で、被害者が加害者との面会を通して、加害者が責任を負わない悪のメカニズムを浮かび上がらせる。来日したジョシュア・オッペンハイマー監督が作品を語った。
第71回ベネチア国際映画祭で審査員大賞など5部門を受賞。虐殺で兄の命が奪われたあとに生まれた眼鏡技師の青年アディが、今も恐怖にとらわれた家族のため「加害者に罪を認めさせたい」という思いから、オッペンハイマー監督とともに加害者宅を訪問する姿を追った。
加害者、被害者側からインドネシアの問題にかかわった。「インドネシアでは、加害者を共産主義を絶滅させたヒーローたちと称えるような実態がありました。しかし、『アクト・オブ・キリング』が公開され、65年の出来事が虐殺であり、その後加害者が権力の座につき、現在のインドネシアにおいても、搾取や腐敗、恐怖が永らえているかということがオープンに話せる状況ができました。そこでこじ開けられたスペースのなかに、躍り出たのがこの作品です」
兄を失ったアディの目的は、加害者を裁くことではなかった。「アディが今回やろうとしていたことは、真実探求でもなければ、自国の暗い闇の歴史を暴くことでもないのです。彼が望んでいるのは、加害者が自分がした事を受け入れること、タイトルにもある『サイレンス』を打ち破りたいと思っているのです。アディの兄が亡くなってから、沈黙が一家を取り巻いています。父は認知症になり、息子の存在を忘れてしまっても、恐怖だけは今も体に染み付いている。一家は恐怖の檻の中に閉じ込められて生きているのです。アディは自分や家族がその檻から逃げ出さなくてはならない、そういう思いから加害者に会いに行きました。恐怖の檻を囲む壁がサイレンスで、その沈黙を打ち破り、逃げたいと感じているのです」
(C)Final Cut for Real Aps, Anonymous, Piraya Film AS, and Making Movies Oy 2014前作に続き、作品を通じてインドネシアの現状に疑問を投げかけている。「今作では、いかにインドネシアの社会に亀裂が入っているかということを暴いています。被害者と加害者たちが恐怖によって、別れて生活しており、起きた事を話すことすらできない。その事実を見て、特にインドネシアの方には、今すぐ真実や正義が必要だと感じるのではないでしょうか」
「自分がインドネシアでできることはすべてした」と語るオッペンハイマー監督。今後の同国とのかかわり方を問うと「私はインドネシアには戻れません。もし戻っても、安全に出国することはできないのです。この次の第3部は、これまでの2本を見たインドネシアの若い人々が立ち上がって、行動して綴ってくれる章になるのではと思います。僕ももちろん、支援は続けますが、ここからどんな物語になるかはインドネシアの人々にかかっています」と期待を寄せる。
最後に、アディ一家の現状について、一家は彼らを支える知識層や人権団体などに囲まれた安全な場所に引っ越し、子供たちは良い学校に進学。アディは移動販売を行っていた眼鏡屋の店舗を持つことになると明かしてくれた。
「ルック・オブ・サイレンス」は7月4日から、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
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