オリビエ・アサイヤス、70年代の若者描いた自伝的作品「冷たい水」を語る
2015年6月30日 15:10
[映画.com ニュース]フランス映画祭2015の関連企画で、思春期の若者たちが登場する日仏映画を集めた特集上映「彼らの時代のすべての少年、少女たち」が6月29日、アンスティチュ・フランセ東京で開催され、オリビエ・アサイヤス監督が1992年に発表した「冷たい水」について、映画評論家の樋口泰人氏とティーチインを行った。
1972年のパリ郊外が舞台。同じ高校に通うジルとクリスティーヌは、素行不良とみなされ、クリスティーヌは施設に入れられ、ジルは退学処分警告を受ける。ある日ふたりは森の廃墟で行われたパーティで、仲間たちとドラッグや音楽で盛り上がる。施設から出てきたクリスティーヌは、ジルと共に芸術家たちが自給自足の暮らしを営むという南仏の街への逃避行を提案する。
本作は、仏テレビ局アルテの企画で、異なる世代の数人の作家が、自身の10代の頃を語るというテーマの作品を作るという試みからスタートした。テーマ、時間、予算が決められていたほか、10代の頃聞いていた音楽を使うというルールがあったそう。アサイヤス監督は「それまでも私は自分の内面にかかわる、小説的な作品を作ってきましたが、この『冷たい水』においては、不思議なことに、注文という枠組みの中で、今までできなかった直接的に自伝的な作品を初めて作れたのです。この作品の主人公はその年齢だったときの私を映したようなもの」と語る。45分のテレビ用とは別バージョンとして製作された本作は、94年のカンヌ映画祭ある視点部門に出品され、劇場公開後は批評家から高い評価を受けた。「この作品のおかげで私の仕事は世界に知られるようになりました、新しい自分の第1作だと思っています」と振り返った。
劇中では、ジャニス・ジョプリン、CCR、ニコ、ボブ・ディラン、ロキシー・ミュージックなどの楽曲が使用されている。選曲の基準を、その時代に10代の若者が集まる場所で聞かれていたであろう曲、1972年の秋に新しくリリースされた楽曲から選んだと明かす。「72年秋の音楽シーンの断面図を作り、面白いことに気がつきました。既に終わったものに対する喪に服す部分が、その時代に新しく出ていたアルバムの中にあったのです。そのひとつの例がニコの曲です。この映画の中には何か死や喪にまつわるものがあります。ティーンエイジャーはいつも死というものが頭から離れないのではないでしょうか。当時ジャニス・ジョプリンは亡霊のような存在でした。しかし、主人公のジルは人生の夜明けにいます。彼の前には未来があるはずです。果たしてその未来はノーフューチャーなのかもしれませんが、何かが登場する瞬間です。この作品は私の自伝的なものだけでなく、その時代に、何かが終わり、何かが始まるということが含まれていると気づいたのです」と説明する。
映画は、ジルがスーパーでレコードを万引きするシーンから始まるが、樋口氏から実体験かと問われたアサイヤス監督は「もう時効だと思うのですが、かなりの数のレコードを万引きしました」と苦笑いしながら告白。樋口氏は「今この作品を見ると、最新作『アクトレス 女たちの舞台』と様々なところがつながって、驚くほどの衝撃を受けた。『冷たい水』が撮られた20年前と今、70年代の若者と今との時間の幅を感じながら見ることができた」と感想を語った。
「アクトレス 女たちの舞台」は10月24日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
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