ロウ・イエ監督、二人の女の間で揺れ動く男を中国社会と重ねた「二重生活」を語る
2015年1月24日 09:30
[映画.com ニュース]「天安門、恋人たち」で2006年に中国当局から5年間の映画製作禁止を言い渡されたロウ・イエ監督が、禁止令が解かれた後2011年に撮影した「二重生活」が1月24日公開する。中国のBBSに書き込まれた、夫の浮気に悩む女性の投稿にインスピレーションを得て製作された本作は、二つの家庭を行き来する男の妻と愛人、謎の死を遂げる女子大生、そして事件を追う刑事、それぞれの登場人物の思惑が交差するミステリータッチのドラマだ。久々に中国正式公開も果たしたが、その道のりは平坦ではなかったとロウ監督は明かす。
会社を共同経営する夫と可愛い娘に恵まれ、満ち足りた生活を送っているルージェ(ハオ・レイ)。しかし、幼稚園のママ友サンチー(チー・シー)が、夫のヨンチャオ(チン・ハオ)の愛人であることを知る。2つの家庭を掛け持つ生活を続けるヨンチャオは、出会い系サイトで女子大生シャオミンと知り合い、シャオミンはヨンチャオと関係を持った直後に事故死する。激しく感情をぶつけあう男女のドラマから、中国社会のダブルスタンダードや一人っ子政策の弊害なども浮き彫りにする。
原題は「浮城謎事」。「ある都市で事件が発生し、本当の犯人や理由が見つからないという意味を持ちます」と説明し、「邦題『二重生活』も中国の現状を如実に表す非常に良いタイトルだと思います」と満足している。映画のオープニングとエンディングは移ろいゆく大都市を俯瞰するような空撮のショットを用いた。「古くから中国では、天が人間の営みを見ているという言い伝えがあります。死んだシャオミンの視点で街を見下ろしているというイメージで撮ったのです」
物語の舞台は武漢。中国中部の湖北省東部に位置し、昨今は工業都市として急速に経済発展を遂げた大都市として知られるが、貧富の差も激しい。「個人的にも好きな街で『天安門、恋人たち』でも重要なシーンを武漢で撮影しました。中国の南、北、西の3つの地域が交差する場所に位置する大都市でパワーがあり、都市の持つ混沌としたものを物語に加えることができました。川や水路によっていくつかの区域に分かれており、非常に発展が遅れている地域もあります。区域ごとに変化が大きい、そういう都市の構造が、中国全体の構造を表していると思うのです。愛人サンチーが住む貧しい地域、本妻のルージェの住む町は実際に行き来も不便なのです。そういう場所で撮ったからこそ、ヨンチャオが二つの家庭を持つという設定が上手く機能しました」と語る。
中国での製作、上映にあたり当局の検閲を受けた。「映画監督として、やはりその映画が用いる母語をわかってもらえる地域で上映したいという思いがあります。母語で見てもらうことで、本当に作品の意味を深く理解してもらえると思うのです。母国で上映できないことは、やはり自分にとっては非常に深刻な問題です」と胸の内を吐露する。脚本の審査に5カ月かかり、公開直前にはシーンのカットを強いられた。抗議の意味も込め、国内の上映版では監督のクレジットを外しての公開となったと明かす。
「社会問題であれ何であれ、すべての物語は人間から起こるもの。人間性を描くことに興味があるのです」。社会や政治に対する風刺、批判を込めた作品を発表する監督もいる一方、ロウ監督は一貫して愛を題材にしたドラマを描き続けている。「特にこの作品では、個人を深く描くことに力を注ぎました。個人を描くことで社会との関係が切れることはありません。二人の女性の間を揺れ動くヨンチャオは、今の中国社会が様々なイデオロギーに揺れ動き、安定しない状況と重なります。また、くず拾いの男を殺した犯人が誰か定まらず、誰がその責任を負うのかも定まらない。それは検閲に対して誰が責任を負うのかということに重なります。もし、検閲に反対であるなら、すべての観客はその声を上げるべきだと思うのです」と力を込めて語った。
「二重生活」は新宿K's cinema、渋谷アップリンクほかで公開中。
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