パン・ウンジン監督、渾身作「マルティニークからの祈り」で“家族”を問い直す
2014年8月28日 14:50

[映画.com ニュース] 2006年、麻薬密売に加担した罪で異国の地に投獄されたある平凡な主婦のドキュメンタリー番組が、韓国で大きな反響を呼んだ。その事件の全貌に迫った映画「マルティニークからの祈り」が8月29日より公開される。元女優のパン・ウンジン監督が来日し、製作に至る動機や映画に込めた思いを語ってくれた。
2004年、多額の借金返済のため南米からフランスまで“金の原石”を運ぶ仕事を引き受けた主婦ジョンヨンは、フランスのオルリー空港で突然逮捕された。彼女が運んでいたものは、金ではなく麻薬だったのだ。だまされていたジョンヨンは弁解の余地も与えられないまま、フランス領カリブ海に浮かぶ島マルティニークの刑務所へ投獄されてしまう。
「彼女の無念の思いを描きたかった」というウンジン監督だが、「この作品を世に出すことによって、彼女がもう1度傷ついたらどうしようという思いもあった」という。「友人の借金の保証人になったことで一夜にして奈落の底に突き落とされた家族。獄中の彼女が生き延びることができたのは、彼女の帰りを待つ家族の存在に他ならなかった。彼女は2回も自殺を試みたそうだけど、家族に会えないことはそれほどつらいこと。そんな家族の意味をもう一度振り返りたいと思った。そのためには、彼女が生まれて初めての刑務所暮らしで感じたもの全てを、きっちりと映画で描きたかったんです」。

同事件解決後、夫婦にもある変化が訪れた。「2人はどんなに狭い部屋でもいいから、家族が肩を寄せ合って一緒にいられる幸せを噛み締めたそうです。経済的に豊かになったわけではないけれど、夫婦は心の部分で大きく成長したのだと思う。もともと旦那さんは口数の少ない無愛想な人だったらしいけど、獄中の妻と手紙のやり取りをするようになって『愛してる』という言葉を発するようになった。この2人は新たに夫婦の関係を取り戻したのではと私は推測したんです。それが、この物語を家族ドラマにしたいと思った大きな動機でもあります」。
そして特筆すべきは、ジョンヨンを演じたチョン・ドヨンの体当たりの熱演。「シークレット・サンシャイン」でカンヌ映画祭最優秀女優賞を受賞している実力派ドヨンは、本作でも限られた条件の中で極限状態に追いつめられていくジョンヨンになりきった。「実はドヨンはそこまで体重を落としていないんですよ。そもそもやせるための時間もなく、順撮りでもなかった。だぶっとした服を着せるなど、ヘアやメイクだけでもうまくやつれた感じを表現できた。「私の演技は成功ね」って本人も笑っていたけど、あれは彼女の演技の力。だてにカンヌで賞を獲ってないですよね」と称えた。
日本の作家・東野圭吾氏の人気小説を韓国で映画化した「容疑者X 天才数学者のアリバイ」など、着実にキャリアを重ねてきた女優出身のウンジン監督。「キャスリン・ビグローが「ハート・ロッカー」で女性初のオスカー監督賞を獲ったけれど、まだまだ映画業界で活躍している女性監督は少ない」と現況を語り、「映画祭用のアートフィルムもあるけれど、私は意図的にメジャーな商業映画を撮っていきたい。映画は芸術であるけれど“産業”でもある。製作のために資本を受け、その利潤を追求する。私はこれからも多くの方に共感してもらえる大衆映画を手がけていきたいと思っています」と自らの進むべき道を冷静に見据えていた。
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