「女囚さそり」伊藤俊也監督、田中泯と作り上げた非言語映画「これまでの私の映画が透けて見える」
2013年12月13日 12:07

[映画.com ニュース] 「女囚さそり」シリーズ生みの親として知られる伊藤俊也監督が世界的舞踊家である田中泯の身体表現だけで撮り上げた映画「始まりも終わりもない」が、12月14日に公開される。伊藤監督が新作を語った。
クエンティン・タランティーノにも影響を与えた「女囚701号 さそり」などの商業映画から社会派ドキュメンタリー作まで、異なるジャンルで数々の傑作を世に送り出してきた名匠の新境地といえる作品だ。言葉を排することで映画の共通言語を目指し、田中の豊饒な身体表現で人間の生と死を描き、ゲリラ撮影も敢行したロケーションで前衛的な映像詩を完成させた。
かなり前から田中を主役とした映画の構想があり、インドや日本の中世を舞台にしたいくつかの企画が浮上しては、諸条件が折り合わずに消えていったという。しかし、「泯さんのドキュメンタリーを撮る意識も、俳優として使う意識もまったくなかった。私の劇的な世界に、ダンサーとしての泯さんに出てもらうということしか考えていなかった」と思いは揺らがなかった。
「ダンスシンフォニーという形式の中で人間の輪廻などを描きたいと泯さんに提案したところ、泯さんからは自分の生い立ちや踊りの歴史を重ねたりするイメージの提示があった」ことから本作の根幹が定まっていったという。1945年の東京大空襲の日にこの世に生を受けた田中、3700人以上の死者を出した福井地震を経験している伊藤監督、ともに生と死が隣り合わせになった出来事への思い入れは深く、劇中でも独特な形で表現されている。
(C)2013 ITO PLANET CO.,LTD緑豊かな山林や荒涼と広がる砂利集積場は田中が築いた共同体「桃花村」のある山梨県で、歌舞伎町や銀座の繁華街でのシーンはゲリラ撮影を行った。「東京の人はじろじろと見ることもなく自然なのでリアルに撮影できましたが、ほぼ裸なので泯さんが警察に引っ張られたら……と心配でした。眼帯くらい小さな三角巾を前につけてもらって這ってもらったんですけれど、どうしても腰紐が見えてしまうんです。学生に手伝ってもらいながらそれを消す作業に時間がかかりました」と苦労を明かす。
公開中の「47RONIN」や来年公開の「るろうに剣心」続編にも出演と、役者としても活動の幅を広げている田中を「自他共に厳しく、独特の生き方、美学を持っている人」と語る。エンタメ作を見慣れた観客は、本作で映し出される舞踊家田中の姿と、伊藤監督のアバンギャルドな映像感覚に衝撃を受けることだろう。「誰にでも受け入れられるかということについては、言い切れませんが、映画や映像を見ることが好きな人だったら、それなりに何かを受け取っていただけると思います」と自信を見せる。
「犬神の悪霊」「白蛇抄」など過去作と共通するようなカットも見られる。「もちろんさそり的なイメージもあるし、それ以降の作品のいいところも悪いところも出ていると思う。過去の作品と重ねて見てもらうと、セリフが何もないからこそこれまでの私の映画が透けて見えるのかも知れませんね」。鬼才ふたりがつむぎ出す“人間の生と死”という永遠のテーマを、さまざまな感覚を研ぎ澄ませてぜひスクリーンで受け止めてほしい。
「始まりも終わりもない」は12月14日、渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開。
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