“劇画の父”辰巳ヨシヒロ原作の長編アニメ、いまだ日本配給されず
2013年11月7日 15:25
[映画.com ニュース] 昭和30年代、大人が読めるマンガとして“劇画”を生み出した伝説的作家・辰巳ヨシヒロ氏の半生を描くシンガポール製作の長編アニメ「TATSUMI マンガに革命を起こした男」が11月6日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で上映された。上映後の記者会見には、現在78歳の辰巳氏をはじめ、メガホンをとったエリック・クー監督、声優を務めた俳優の別所哲也、プロデューサーの山本真郷氏が出席した。
映画は辰巳氏が自身の半生をつづった「劇画漂流」と、同氏による5つの短編作品から構成された96分の長編アニメーション(2011年製作)。劇画誕生の秘密や辰巳氏が劇画で挑んだ革命的な表現、さらに手塚治虫との知られざる関係が、「辰巳ヨシヒロの劇画をそのままアニメーション化する」という野心的なスタイルで描かれる。声優として6役を演じ分けた別所は「俳優として大きなチャレンジになった」と振り返った。
辰巳氏によると、本作の製作以前にも「ハリウッドをはじめ、イギリス、カナダ、スペイン、フランスから映画化の話があったが、どれひとつ実現しなかった」といい、最後に名乗りを上げたのがエリック・クー監督だったそうだ。「その頃には映画界に嫌気がさしていたが、実際エリックさんに会ってみると、オーラに圧倒された。それに私のことを持ち上げること、持ち上がること(笑)。こっちも参ってしまい『よろしくお願いします』という話になった」と映画化の経緯を明かしていた。
本作は第64回カンヌ映画祭「ある視点」部門に、日本語によるアニメとして史上2本目の出品を果たし、その後、アヌシー国際アニメーション映画祭、シッチェス・カタロニア国際映画祭などで上映。2011年の第24回東京国際映画祭では「アジアの風」部門のアジア映画賞スペシャル・メンションにも評されている。すでに20カ国で公開されている一方で、いまだ日本での配給はメドが立っていない状態だといい、山本氏は「製作に9カ国がかかわる世界的なプロジェクト。劇画のエキスがつまった作品の日本配給につながれば」と強い意気込みを見せる。
日本未公開という現状に対し、辰巳氏も少なからず不満があるようで「やはり日本のアニメは子ども向け。宮崎駿監督も最近、ちょっとだけ大人の世界を垣間見せる作品をつくったが、アニメ界全体は好調なせいで、のうのうとやっている」と指摘。「日本人以上に日本を理解し、愛しているエリック監督が、アニメに劇画の精神を持ち込み、大人の世界を描いてくれたことに感動している。たかがシンガポールで作ったアニメだと思っていたら、そのうちとんでもないしっぺ返しを食らうと思う」と胸中を語った。
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