実在のシリアルキラー「THE ICEMAN」は規格外の「ゴルゴ13」?
2013年10月29日 21:30
[映画.com ニュース] 約20年間で100人以上を殺害した実在の犯罪者リチャード・ククリンスキーを描いたクライムドラマ「THE ICEMAN 氷の処刑人」の公開を記念し10月29日、犯罪心理学者の越智啓太氏とノンフィクション作家の藤井誠二氏が、越智氏が教べんをとる法政大学の犯罪心理学ゼミ生に向けて対談を行った。
1960年代、米ニュージャージーで家族と幸せに暮らしていたククリンスキーは、心優しき家庭人という表の顔と、冷酷な殺人者という裏の顔をもっていた。死亡日時を判定されないように遺体を冷凍保存することから「アイスマン」の異名をとったククリンスキーを、「テイク・シェルター」「マン・オブ・スティール」のマイケル・シャノンが怪演。共演にウィノナ・ライダー、クリス・エバンス、ジェームズ・フランコら豪華キャストが顔をそろえた。
越智氏は、ククリンスキーが凶悪なシリアルキラーに至った背景を「殺し屋という商売は難しい。ヤクザ映画などを見るとヒットマンが簡単に何人も殺したりするけれど、殺人者でも心の傷を負う場合が多く、良心のかしゃくもなく人を殺し続けるのは難しい。それでも殺人を抑制するものがなくずっと続けられる人もいて、それは脳の異常などがなければあまり考えられない。学問的にも障害持続型犯罪者といって、先天的な共感性の欠如、暴力や衝動を制御する能力の欠如がコアにあるのではないかと考えられている」と解説。藤井氏も、「何でもかんでも生育環境に原因を突き詰めていく論調だけではなく、最近ではケーススタディをもとに新しい論調も出てきた」と多様な見解が存在することを説明した。
さらに越智氏は、「この映画で面白いのは、ククリンスキーが後半になると詩を作ったり涙を流したりすること。これは何かを通じて障害が治っていく過程、ちょっとした希望を示しているのでは」と考察した。藤井氏は、宮崎勤による連続幼女誘拐殺人事件に言及し、「3種類の精神鑑定書が出て、どれを採用するかで議論が沸とうした。最終的に犯人は狂ったような状態になって絞首台におくられたけれど、拘禁状態の中で先天的なものが悪化していったとも考えられる」と述べた。
犯罪者はいくつかのタイプに分類されるが、越智氏は「ククリンスキーは殺し方が千差万別なところがまれに見る殺人者。たいがいの犯人は好きな殺し方を同じパターンで行う。『ゴルゴ13』のように既存のタイプにはめることができない」と規格外であることを強調した。
「THE ICEMAN 氷の処刑人」は11月9日より公開。