大陸に渡って成功した映画人、香港にとどまって意地を見せる映画人
2013年10月16日 19:00
[映画.com ニュース] 香港映画は死んだのか? 中国返還から16年。香港の映画人は、巨大市場と表現の自由の間で揺れ続けた。1980~90年代、"東洋のハリウッド"と呼ばれた映画の都も、返還からアジア経済危機、中国市場の拡大と、急激な環境の変化に直面。製作本数は激減し、往年の輝きはない。
「ビジネスチャンスは北にある」。中国の急速な経済発展を背景に、香港の映画関係者はこぞって北京を目指した。ピーター・チャンら有名監督が次々現地事務所を設立。中国の巨大資本を引き込み、人口13億人をターゲットにした映画作りを目指している。中でも成功したのはジャッキー・チェン、チャウ・シンチー、アンディ・ラウかもしれない。
アンディ・ラウは今年、米誌フォーブスが毎年発表する「中国有名人ランキング」で、香港人最上位の3位に入った。同ランキングは、メディアへの露出度、商業的価値、前年の年収で総合評価される。アンディは中国でのコンサート、CMなど縦横無尽に活躍。人気は中国本土でも絶大で、「中国人で彼を嫌いな人はいない」と断言する人がいるほどだ。
一方、ジャッキーとシンチーは、中国の有名監督が名を連ねる「億元監督クラブ」入りを果たした。「億元」とは1億元、約16億円。興行収入が16億円を超えるヒット作を生んだ監督を、ファンが敬意を込めてそう呼ぶのだ。ジャッキーは最新の監督・主演作「ライジング・ドラゴン」(12)が興収8億7000万元(約140億円)を突破。シンチーは「カンフー・ハッスル」(04)が1億元超え、「ミラクル7号」(08)が2億元超えと数字を伸ばし、最新作の「西游降魔篇」(13)で12億元(約193億円)を超す大ヒットを飛ばした。
二人はまた、中国政界への接近でも注目された。ジャッキーは今春、国政助言機関の全国政治協商会議(政協)委員、シンチーは広東省の政協委員に選出。政協には香港、台湾の著名人が名を連ね、共産党が党員以外の市民の取り込みを狙う。二人は「中国寄り」の印象を強め、波紋も呼んでいる。
ジャッキーは昨年末、中国誌のインタビューで香港市民を非難した。「香港では中国や指導者をののしり、デモをする。どんなデモが良く、だめなのか、規制すべきだ」。瞬く間にインターネット上で批判が噴出した。「共産党に入党したのか」「自分が得をするための発言だ」。ジャッキーは過去にも中国寄りの発言を繰り返し、香港や台湾のファンに戸惑いを広げている。
中国市場を無視できなくなった今も、香港を製作活動の中心にする監督がいる。代表的な存在がジョニー・トーとパン・ホーチョンだろう。今や"香港ノワール"の顔となったジョニー・トー作品に、香港の街と人は欠かせない。監督は「香港には中国のような資金力はないが、自由がある。検閲は許しがたい」と語る。
独特の映像センスとブラックユーモアで、日本にファンの多いパン・ホーチョン作品も、香港の街と切り離せない。男女の恋愛模様を描く「恋の紫煙」(10)は、テンポのいい広東語のスラングが香港らしさを醸し出した。二人とも最近中国を舞台に作品を撮り始めたが、今の香港映画界を代表する顔といえるだろう。
中国へ行くべきか、とどまるべきか。香港の監督や俳優にとっては、古くて新しい悩みといえる。かつて「籠民」(92)や「流星」(99)などの人間ドラマで、香港庶民の思いを丁寧にすくい上げたジェイコブ・チャン監督。数年前の来日時、こう言って肩を落とした。「家も仕事場も北京に移した。なのに中国の人たちは、僕を『香港人』としか見てくれない。中国の監督、中国人に思われたいのに」
一方、生まれ育った香港で「香港人のために」撮る若手監督もいる。10月26日に公開される「コールド・ウォー 香港警察 二つの正義」(12)でデビューしたリョン・ロクマン、サニー・ルクの二人だ。骨太で緻密な警察ドラマは、香港アカデミー賞の各部門を独占。内外で高く評価された。宣伝のため来日した監督に「中国へは行かないのですか」と聞くと、二人は声をそろえた。
「いろいろな人に言われたよ。北京で撮ったほうがいいって。でも僕らは香港人のために撮りたいんだ。香港映画はもうだめだなんて、誰が言ったんだ? 僕らに撮らせてから言えよ。香港映画は死んじゃいないぜ!」(遠海安)
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