「風立ちぬ」と共通点も 仏文学者2人が語る「うたかたの日々」
2013年9月29日 16:40
[映画.com ニュース] 映画「ムード・インディゴ うたかたの日々」の公開(10月5日)を記念し9月25日、仏文学者の中条省平と野崎歓が都内書店で「ヴィアンと20世紀フランス小説 『うたかたの日々』から『消しゴム』へ」と題したトークイベントを行った。
1950年代に小説家やミュージシャンとして活躍したフランスのアーティスト、ボリス・ビアンの代表作を、ミシェル・ゴンドリー監督が映画化。原作は邦題「うたかたの日々/日々の泡」として知られ、裕福で働かずにパリで自由に生きていたコランが、美しいクロエと恋に落ち結婚するが、ある日クロエが肺の中に睡蓮が芽吹くという奇妙な病に侵される。人生を変えて妻を助けようとするコランの姿とふたりの運命を描いた物語。
野崎氏は光文社古典新訳文庫「うたかたの日々」として、日本で3度目となる本作の翻訳を手がけ、中条氏は、ヌーボーロマンの代表的作家で、アラン・レネの「去年マリエンバートで」のシナリオを手がけ、自身も映画監督として活動したアラン・ロブ=グリエの処女小説を、光文社古典新訳文庫「消しゴム」として翻訳した。
「うたかたの日々」では人間の言葉を話すネズミが登場するが、ネズミがフランス語では女性名詞であることから、その性別について論議されることが多いという。野崎氏は「映画ではネズミに向かって男か女か尋ねるシーンがあるので、ゴンドリーにぐっと親近感がわいた」と翻訳者ならではの感想を語った。
映画の印象的な場面として「後半だんだん色を失って暗くなっていくところが、胸を締め付けられた」と話した中条氏は、「ビアンの作品は美しい恋愛を謳歌したり、人生の楽しさや喜びを無条件で肯定する一方で、人生なんか踏み潰してもかまわないというように強硬な、どうにもならない否定性を抱えている。ジャン・コクトーが持っていたような自己破壊みたいなものが、小説にも色濃く出ている」と分析する。
野崎氏はボリス・ビアンが日本で絶大な人気を誇っている理由について、「ファンタスティックである種少女マンガ的な繊細な世界を描いている。これは日本人の感覚にすごく合う。そしてもうひとつが滅びの美学」と持論を述べ、ある意味で宮崎駿監督の最新作「風立ちぬ」と通ずる部分があると話す。
中条氏も「人間は死ぬものだから今この瞬間を大事にしなければという気持ちとして、東洋的なニヒリズムと響きあうものがビアンの中にある。それを日本人が再発見しているのでは。話としてはまさに『風立ちぬ』」と野崎氏に同調し、戦時中を生きた作家たちの作風と時代的な背景についての関係を説明した。
ビアン、ロブ=グリエともに1920年代に生まれ、同時代を生きたものの作風はまったく異なる。野崎氏はそんなふたりの共通点として「2人とも理系出身、戦前までのフランスの文学者で理系の人間はまずいなかった。理系がエリートになっていくはしりが彼らだった」と説明し、中条氏とともに20世紀フランス文学を代表する作家ふたりの作品や人生を大いに語りあった。
「ムード・インディゴ うたかたの日々」は10月5日から全国で公開。
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