トミー・リー・ジョーンズ、親日家がマッカーサー元帥を演じて体感したこと
2013年7月25日 14:00

[映画.com ニュース] 「苦虫をかみ潰したような」という表現がこれ以上ないほどぴったりの表情だが、どうやらこれがトミー・リー・ジョーンズにとっての平常らしい。決して不機嫌なわけではなく、その証拠に質問に答えるたびに映画ではお目にかかれない優しい笑みを一瞬だけ浮かべ、すぐにまた“通常”に戻るという繰り返し。映画「終戦のエンペラー」(7月27日公開)を携えて来日を果たした名優は、かのマッカーサー元帥を演じ、戦後の日本の行方を大きく左右することになる歴史の1コマに身を置き、何を感じたのか。(取材・文・写真/黒豆直樹)
舞台は終戦直後の日本。この戦争の真の責任者は誰なのか、天皇陛下は戦争に責任を負う立場にあるのか――。極秘指令として、この問いに対する答えを調査する知日派のフェラーズ准将を軸に、物語は日本人女性との知られざる恋を絡ませながら展開していく。
「MIB」シリーズ、近年では缶コーヒーのCMと、日本のお茶の間での認知度は抜群のジョーンズが、戦後の日本に大きな影響を与えたマッカーサー元帥を演じるというのは興味深い。当初は「自分とマッカーサーは外見的に似ても似つかないと思った」というが、「コーンパイプをくわえ、サングラスを掛ければイメージに近づけるかもしれないと思い、オファーを前向きに考えるようになった」。親日派としても知られるだけに、「戦争で焼け野原となった日本がどのように再建されていったのか、という点にも深い興味を覚えました」と語る。
マッカーサーについては「以前から尊敬の念を抱いていたし、この映画にかかわるにあたって様々な文献にも目を通し、彼の人生そのものへの理解が深まった。日米二国間のために彼がどのような貢献をしたのかを知り、真の意味での英雄であるとさらに敬意を深めた」と明かす。映画は、あくまでも日本に“やって来た”アメリカ人の視点から描かれているが、必ずしもマッカーサーを英雄的に描くのではなく、頑なで冷徹な占領者としての一面をもしっかりと浮かび上がらせる。
そんな中で、苦虫をかみ潰したようなマッカーサーの表情が劇的な変化を見せるのが、映画の終盤。歴史上、日本の未来を決定づけたとされる昭和天皇との会見の場で、昭和天皇の言葉を聞いた瞬間、なんとも柔らかい、慈愛に満ちた表情を浮かべる。ジョーンズは、「マッカーサーの頭の中に渦巻いているいろんな思いを想像した」と述懐。「彼は人生の多くの時間をフィリピンや日本といった西太平洋の国々で過ごしており、そうした国々について理解を持った人物です。アメリカの民主主義的な価値観を持った人物として、アメリカ的な形ではあるけれど平和というものを日本に、そして日本の象徴と言える天皇陛下に対して差し出す。もちろんそこには日本を共産主義から守るという政治的な思惑もある。そうやって彼の思考を想像したとき、おそらくそれは非常に昂揚した瞬間になるだろうと思いました」。
昭和天皇を演じたのは、歌舞伎俳優の片岡孝太郎。10年来の歌舞伎のファンであるジョーンズは、「美しく洗練された演技でした。お父様(片岡仁左衛門)のお許しを得て、より多くの映画に出てもらえたらと願っているよ」と最大限の称賛を込める。
昨年5月の「メン・イン・ブラック3」のプロモーションに続いての来日となったが、この間に自身が監督を務める新作映画の撮影に入っていたそうで「編集の合間を縫って」日本に来たとのこと。気になる新作だが「女性のメインキャストはヒラリー・スワンク。僕も出ているし、メリル・ストリープも娘のグレースと一緒に出演していて、映画の終盤で重要な役割を果たすんだ」と明かしてくれた。「まだ公開がいつになるか分からないし、日本で公開されるのかもわからない。でもそうなったらまた来日するよ」。そう言ってまた静かに笑みを浮かべた。
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