「ソレイユのこどもたち」奥谷洋一郎監督&写真家・迫川尚子氏、被写体との距離感を語る
2013年7月21日 06:30
[映画.com ニュース] 東京・多摩川河口の廃船で暮らす老人の生活を記録したドキュメンタリー映画「ソレイユのこどもたち」が7月20日、東京・新宿のK'sシネマで封切られ、奥谷洋一郎監督が写真家の迫川尚子氏をゲストに迎えてトークイベントを行った。
「ニッポンの、みせものやさん」で注目を浴びた奥谷監督が、東京湾に流れ出る多摩川の河口の廃船で、ソレイユ(フランス語で「太陽」の意)と名付けた犬と暮らす老人の日常に密着したドキュメンタリー。2011年の山形国際ドキュメンタリー映画祭でアジア千波万波部門特別賞を受賞した。
奥谷監督は、「東京をモチーフに映画を撮ろうと、最近いなくなったノラ犬を探して始まった映画。日本の社会の中で管理されやすい息苦しさ、ギスギスしたものを感じていて、都市の狭間で生きているノラ犬を撮ってみようと思った」と製作の経緯を明かした。迫川氏が新宿の日常を切り取った写真集「日計り」や「新宿ダンボール村」に深く感銘を受けたといい、「これはすごいなと。撮影者の立ち位置と写り込んでしまうもの、それがいいなと思った。普通なら通り過ぎる景色もとても心地良い。ダンボール村の写真は船のおじさんに近いものを感じた」と共感していた。
迫川氏は、路上生活者たちに顔を覚えてもらおうと赤いコートを着てダンボール村に通ったといい、「マスコミも殺到していたけど、私は報道写真という撮り方ではなく、彼らと一緒じゃないという意味もあった」と説明。また、「家って何だろう、住所って何だろうと考えた。路上の生活って過酷だけど、笑い合ったり楽しい時もあった。地面に座って通行人を見ることってなかなかない。カメラがあったから入れたし、撮り続けられる大事な部分だった」と述懐。自身も副店長を務めるJR新宿駅の「ビア&カフェBERG」で立ち退きの危機を経験したが、「町って、店って誰のものだろう? 経営者たちだけで話を決めていいのかなと。続けていいのかなという気持ちにさせてくれたのはお客様の声だった」と改めて感謝の意を述べていた。
奥谷監督は廃船に暮らす老人を決して“ホームレス”と呼ばず、「おじさんも自分のことをホームレスと呼ばないし、映画を見た方がどういう方なんだって判断してくれればいい。僕もおじさんを全肯定してるわけじゃなく、自分の言葉尻で何かを決めつけたくない」とその真意を語った。