新海誠監督、新作「言の葉の庭」に「作ることができて1番よかった作品」と自信
2013年3月31日 15:15
[映画.com ニュース]繊細な描写のアニメ作品で人気の新海誠監督が3月31日、千葉・海浜幕張の幕張メッセで行われた「アニメコンテンツエキスポ2013」に出席。「秒速5センチメートル」(2007)で主人公・篠原明里の少女時代の声を担当した近藤好美さんをゲストに迎え、同作や最新作「言の葉の庭」についてトークを繰り広げた。
「言の葉の庭」は、新海作品初となる恋愛をテーマに、靴職人を目指す高校生タカオと謎めいた女性ユキノの揺れ動く恋模様を描く。初めて舞台を現代の東京に設定し、新宿を中心に東京タワー、スカイツリーに加え新宿バルト9といった映画ファンにはたまらない要素も盛り込んだ。“初めてづくし”となった今作だが、新海監督は「作ることができて1番よかった作品だと現時点で思っている。もし何かあって自分が死んでしまうとしても、この作品を作れたからよかったと思える」と自信をのぞかせた。
新海監督は、「(今作は)『実写的』と言われることもあるけれど、意外な感じ。(距離感を表現するために)キャラクターのまわりに葉っぱや木を置いたり、舞台のように小道具を配置してアニメーションだからこそできる画面の作り込みをしている」と解説。万葉集がキーワードとして登場するが、花澤香菜演じるユキノが歌を朗読する場面では、歌の内容に絡めて背景に稲妻を走らせ、「15歳の男の子にとって未知なる女性の神秘性」を表現するなど、独特の新海ワールドを見せている。主題歌として起用した秦基博による大江千里のカバー曲「Rain」には、「僕は大江千里さんの影響を受けていて、『秒速』で近藤さんが読んでくれた手紙は(大江の曲の)歌詞なんです。今回の主題歌『Rain』は本編に密接に絡む形で登場している」と思いを込めた。
この日、新海監督が登場したブースには用意された180席を上回るファンが殺到。新海監督と近藤さんは、会場に詰めかけたファンの質問に答えた。今作は46分という短さだが「見てもらえれば時間を忘れ、濃密な時間だと感じてもらえると思う。密度は極限まで高めた」。美しい自然描写を得意とする新海監督は、「現実をどうアニメーションの中で描くのかということが、アニメーションの中でのテーマ。自然を見る度に『なんて美しいんだろう。仮にコンピューターの演算で作るとしたら、どれだけ膨大なリソースが必要なんだろう』という感じ方をしてしまうんだけど、それくらい現実は複雑で難しい。アニメーションは人の手で描くものだから、どう解釈していくかが大事になると思うので、映像を通してお客さんと共有できれば」と語った。
さらに、「『秒速5センチメートル』は良い話を描いたつもりだったんだけど、『鬱になった』という話を聞いて責任を感じて(笑)。でも、これは『これじゃ救われないよ』という思いにはならないと思う。他者とどういう風に付き合いたいかが少年にとってのテーマ」と説明。ティーンファッション誌「ラブベリー」のモデルなどの芸能活動を経て、現在一般企業に勤務する近藤さんは、「まだ未完成の作品を見させていただいて、新海監督の持ち味というか現実がアニメになった美しさがたくさん詰まっていました。ストーリーも内容もすごく引きつけられる」と笑顔をのぞかせた。
「言の葉の庭」は、5月31日から全国で公開。