ノルウェーの鬼才、ノオミ・ラパス主演スリラーは「幸せがつかめないおとぎ話」
2013年3月29日 17:00
[映画.com ニュース] ノルウェーの鬼才ポール・シュレットアウネ監督が、北欧映画を特集する映画祭「トーキョーノーザンライツフェスティバル2013」で来日し、3月30日公開のノオミ・ラパスを主演に迎えた最新作「チャイルドコール 呼声」について語った。
夫の虐待から逃れるため、8歳の息子アンダースとともに郊外のアパートに引っ越してきたアンナ(ラパス)。しかし、息子の部屋に設置した「チャイルドコール」と呼ばれる監視用音声モニターに謎の声が混線したことで、アンナの不安は日に日に増大し、やがて現実と虚構の区別さえつかなくなっていく。
デビュー作「ジャンク・メール」やエロティックサイコスリラー「隣人 ネクストドア」で脚光を浴びたシュレットアウネ監督。本作は児童虐待を題材にしたサイコスリラーだが、「描きたかったのは人間がいつの間にか自分の現実だと思う世界を勝手に作り上げてしまうという“現実”。アンナの場合は非常に極端な世界観だけど、この映画では自分の世界を虚構として作り上げてしまう可能性について描いている」と訴える。そのため、観客自身もアンナの見ている世界が現実なのか虚構なのかの判別が難しく、「僕自身も混乱を予想していたよ。だけど僕自身、はっきりなんでも分かる、解釈が1つしかできない映画は見たくない。だから見た人が色々な解釈ができる映画を作りたいと思っていた。この映画でチャレンジしたいと思ったのはポエティックな描写。映像から色々な連想をしたり、音を聞いて色々なものを感じてもらいたかった」と狙いを明かした。
「ミレニアム」3部作や「プロメテウス」で国際的な注目を浴びたラパスが、本作ではヒステリックで情緒不安定な女性を迫真の演技で体現している。「ラパスはとてもユニークで、芸術家としての野心をもっている素晴らしい女優。彼女は常に100パーセントで役になりきっていた。ダニエル・デイ=ルイスのように、撮影の最初の日から最後の日まで役になりきるタイプ」とラパスの役者魂を絶賛した。
各国での反響はさまざまだったそうで、「イギリスではあまり良い批評はなかった。伝統的にリアリズムの映画が好まれている国だからだと思う。その対比として、スペインやフランス、南米などではリアリズムでない部分を気に入ってもらえたようだよ」と分析。また、「基本的に私の映画はすべて孤独を描いている。孤独というのは北欧映画の特色のひとつではないかな。ノルウェー国民はとても個人主義で、最近では家族の単位や共同体が縮小している。それに伴って人々の孤独も増大しているかもね。僕はそれを“スカンジナビアン・ロンリネス”と呼んでいるよ」と独特のユーモアで語った。そして、「この映画はおとぎ話と非常に似ている。ただし、幸せがつかめないおとぎ話なんだ」とほほ笑んだ。
「チャイルドコール 呼声」は3月30日ヒューマントラストシネマ渋谷で公開。