高良健吾×井浦新が読み解く、若松孝二監督遺作「千年の愉楽」
2013年3月8日 15:15
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[映画.com ニュース]2012年10月に交通事故で死去した若松孝二監督の遺作となった「千年の愉楽」が、3月9日に封切られる。第69回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門に出品された今作は、中上健次氏の代表作が原作。劇中で、運命に翻弄(ほんろう)されながら命の火を燃やし尽くし死んでいく男たちを演じた高良健吾、井浦新に話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/本城典子)
「千年の愉楽」は、紀州の“路地”で暮らす産婆オリュウノオバ(寺島しのぶ)が語り部としての役割を果たす。高貴で不吉な血をもって生まれ、女たちに愉楽を与えた男たちの壮絶な生き死にを見続けてきたオバの脳裏に、そのはかなくも激しい生きざまが去来するようになる。
高良は自らの美ぼうを呪うように生きた中本半蔵、井浦は半蔵の父・中本彦之助に扮した。井浦が5作連続で若松監督に起用される一方で、高良は初タッグ。井浦からは、「若松組は何が起こるかわからないから、準備さえしていれば大丈夫」とアドバイスを受けたという。現場では、先に撮影に入っていた高岡蒼佑の演技を見た高良は、自らが演じる半蔵の方向性を定めていくことができたようだ。「高岡さんは、“路地”で生まれ育った田口三好役を甘えるような、いとおしい感じで演じられていたんです。僕が演じた半蔵は生まれたときからたらい回しにされ、大阪に飛ばされたこともあるので、ずっと路地にいたわけではない。その差というのを表現するのに、オバに対して母のように接するのか、どこか女性を意識して接するのか、そういうことを考えるとき、高岡さんの演技を役に立てることができました」。
撮影中に誕生日(11月12日)を迎えた高良は、くしくも当日に半蔵が25歳で絶命するシーンに臨んだ。これまでにない感慨にとらわれたようで、「生から死を考えるのが普通だと思うのですが、このときは死から生を考えたというか、感じることができた」という。だからこそ、半蔵の気持ちを汲み取ることができた。「誰も信じないとか、そういう簡単な話ではなくて、自分さえも信じられなくて。いろいろなことに疑問を持ちながら生きているように感じました」と分析する。
クランクイン当日のファーストカットで出番を迎えた井浦は、並々ならぬ集中力で撮影に挑んだ。というのも、「監督は願掛け的なところで最初のシーンを非常に大切にされるので、いつも以上にテンションが高い。それに食らいついていこうと思った」からだ。この日は、現場の雰囲気を感じようと思った井浦が芝居場にたたずんでいると、若松監督が例外的に「新、ちょっと流してみよう」と声をかけ、リハーサルを始めたという。
「淡々と始めてみたものの、僕はセーブできないので初っ端から気持ちを込めて演じたら、監督が『すぐに始めるぞ!』と声をあげ、現場が一気に火がついたんです。本番で自分からどんなものが出てくるのかも分からなかったのですが、夢中になってやったものを監督が面白がってくださった。それが気持ち良くて、気がついたら30分後には次のシーンの撮影に移動していました(笑)」
井浦もまた、高良と同様に自らの役どころと真正面から対峙した。我が子がこの世に産声をあげた日に息絶える彦之助という人物背景について、「“中本の血”というものを比較的理解して生きてきた男だと思うんです。本人も翻ろうされて生きてきたはずで、案の定、女に刺されてしまう。中本の呪われた血をつなげてしまったという意識があるがために、子ども(半蔵)が生まれることに対しても素直に喜べないわけです。喜ぶこともなく、悲しむこともなく、後悔しているわけでもなく、とことん中本という血の濃さを感じながら死んでいったんだろうなあと解釈しています」と語った。
静かに、一点を見据えながら説明する井浦を、高良は「ずっとあこがれて見て来た人」と目を輝かす。「蛇にピアス」(2008)で初共演し、「ソラニン」「横道世之介」と分岐点となるような作品で、顔を合わせてきた。今作では共演シーンこそないが、“若松イズム”は確実に継承した。高良は、先輩との関係を「遠慮したら新さんに失礼。5年経ったなかで、ちゃんと本気で役者としてぶつかっていかないといけないと思うんです。これからも、もっと共演する機会があってほしいし、自分の個人的な感情に揺れることなく演じることのできる役者でいたいです」と熱い口調で説く。そんな後輩を、対等な目線で頼もしそうに見つめる井浦の眼差しもまた、これまでにないほど熱いものだった。
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