「マーターズ」パスカル・ロジェ監督、新作ホラーで挑む定型化した映画の壁
2012年11月2日 16:00
[映画.com ニュース] フレンチホラーの新鋭パスカル・ロジェ監督は、痛みの先にある究極の自由を追求した「マーターズ」で、鬼気迫る映像と異色のテーマで物議をかもし、注目を浴びた。脚本も兼ねた最新作「トールマン」では、寂れた田舎町で発生する幼児誘拐事件に隠された驚くべき真実を描く。今作のプロモーションのため来日したロジェ監督に、映画にかける思いを聞いた。
鉱山の閉鎖に伴い、活気を失った炭鉱の町コールド・ロックでは、“トールマン”と呼ばれる者によって次々と子どもが誘拐されていた。ある夜、看護師ジェニーのもとにも魔の手が伸び、目の前で子どもがさらわれてしまう。
迷子探しや行方不明者のポスターに感じるものがあったというロジェ監督は、「アメリカで起こった実際の数字として、1000人の子どもたちが跡形もなく消えているという事実を知った」ことから今作の製作に乗り出した。「ケネディ大統領暗殺、マリリン・モンローの死を扱うことと似ていて、大勢の子どもがいなくなったという事実からいろいろな疑問がわき起こる。子どもがいなくなる原因としてさまざまな選択肢があったけれど、内なる自分の声を聞いたとき、社会的な意味を持たせたほうがいいと感じたんだ。今作は貧困社会を描くことで、現代社会の抱える格差問題やコメントを盛り込みたいと思った」と熱を込める。
今作は、主演に「テキサス・チェーンソー」(2003)、「トータル・リコール」(12)のジェシカ・ビールを迎え、王道サスペンスを踏襲した導入部分など、観客への訴求方法はエンタテインメント色が強いが、後半から物語の軸が大きく変わる。「ホラーやスリラーなどジャンル映画は、お約束ごとが決まってしまっていて新鮮さを保ちにくい。お決まりの形ではじまってもいいけれど、着地点は別に設けないとレシピ化された映画になってしまう。決まったパターンは、飛び越えなければ壁なんだ」と持論を展開する。
ロジェ監督は、前作でも印象的だった物語の2重構造を「前半の第1部は見えている表の部分で、後半第2部は隠れている部分なんだ」と説明。そして「典型的なストーリーをひっくり返していく過程は、つくっていてとても楽しいね。もうひとつ、アメリカが支配する世界でつくられる作品は、ストーリーが非常に弱い気がする。アメリカ的でない手法が少ない今こそ、そこから抜け出た場所で物語を語ることが必要だと思うんだ」と作品づくりへの強い姿勢を語った。
「トールマン」は、11月3日から東京・渋谷シアターNで公開。
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