事故直前まで一緒にいた井浦新、恩師・若松監督に涙の別れ 寺島しのぶらも参列
2012年10月24日 13:54
[映画.com ニュース]10月17日に死去した若松孝二監督の告別式が10月24日、東京の青山葬儀所で営まれ、遺作となった「千年の愉楽」に主演した寺島しのぶ、共演の高良健吾、井浦新、佐野史郎ら多くの映画関係者が出席し、最後の別れを告げた。
参列者を代表し、古くからの“同志”である足立正生監督、友人で「游学社」代表の遠藤眞彌氏、そして井浦が弔辞を読んだ。井浦は、若松監督とともに「千年の愉楽」を携えて釜山国際映画祭に参加しており、帰国後もそろって函館港イルミナシオン映画祭のプレ上映に参加する予定だった。函館に向かう2日前となる事故当日の夜も、新宿で若松監督と会っており、井浦と別れた後にタクシーにはねられたという。
井浦は、最後に会った際に釜山で撮った写真とバッグを若松監督にプレゼントしたことを明かし、「うれしそうにしてくれた顔を忘れられません。監督を見送って、あれが最後の別れになるなんて考えもしませんでした」と声を詰まらせた。監督との付き合いは「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)」から。「監督は、どこの馬の骨とも分からぬ電話越しに話す僕を受け入れて『オーディションに来い』と言ってくれました。たくさんの言葉をいただき、僕の人生を変えてしまうくらいの経験をさせていただきました。僕は監督とは現場でしか真正面からケンカすることができず、だからこそ若松組の現場が大好きでした」と感謝の思いを語る。
さらに、「数々の監督から授かった言葉の根底にあり、監督が一番大切にしていたのは“心”という言葉だった」と言い、「僕らはそれをしっかりと抱きしめ、監督の背中を見ていましたが、もう前進します」と恩師の遺影に誓った。そして「僕もいつかそっちに行く時が来ますが、向こうで酒を飲みながら見ていてくれたら『下手な芝居しやがって』と笑いながら怒ってください。どうもありがとうございました。ゆっくり休んでください」と別れの言葉を述べた。
式の後に報道陣の取材に応じた寺島は、「お付き合いは短かったですが、かけがえのない時間でした」と声を震わせた。「キャタピラー」ではベルリン国際映画祭の主演女優賞(銀熊賞)に輝いたが、「子どもがほしくて1年休もうと思っていた時にいただいた台本で、監督はその事情を知っていたので、子どもが生まれたときには一番に電話をくださいました」と俳優への優しさと愛情に満ちた一面を明かした。遺作の「千年の愉楽」では産婆の役を演じており、「監督に『試写会に子ども連れて舞台挨拶をしてよ』と言われて、それが最後になってしまいました……。教えていただいたことを胸に、監督がビックリするような芝居を心がけたい」と涙をぬぐいながら語った。
出棺の際には、監督の三女で若松プロダクションのプロデューサーを務める尾崎宗子氏が遺族を代表して挨拶に立ったが、生前から若松監督は「おれが死んでもメソメソとしみったれるんじゃないぞ」と言っており、拍手で送られることを望んでいたという。その言葉通り、参列者の拍手のなか、若松監督を乗せた車は葬儀所を出発した。この日の参列者は約600人。会場には若松組のスタッフが選んだ、過去の監督作を彩った楽曲が流された。