塚本晋也監督、Coccoとの対話を経て導き出した“生”
2012年4月6日 17:45

[映画.com ニュース] シンガーソングライターのCoccoが初主演した「KOTOKO」が、4月7日に公開される。世界がふたつに見えてしまう女性・琴子は、繊細すぎる心を抱え、暴力のまん延する世界から最愛の息子を守ろうとする。“都市と人間”というテーマのなか、生の生々しさを浮き彫りにしてきた塚本晋也監督が、Coccoの内面に焦点を当ててつくった今作について「小さくて愛情を注いだ作品だから、公開するまで居ても立ってもいられない」と照れくさそうに語ってくれた。
「BULLET BALLET/バレット・バレエ」でCoccoにインスパイアされた少女を描いた塚本監督は、「自分の昔の記憶を思い出しながら脚本を書いたため、10代の少女の世界に肉薄していない負い目があった」。そのころから「いつかCoccoの世界に歩み寄った映画をつくりたい」と思い続け、ついに本作『KOTOKO』で実現。インタビューをしながら形にするCoccoの内面に迫る脚本作りをする機会を得た。
「Coccoさんが関わることで、嘘偽りにのない生き生きとした女性像が作り出せた。また、Coccoさんの世界に触れながら、自分にとっても重要なテーマが浮上してくるのを感じた」そして、命が息づく物語として形にしたのだ。
7年間介護した母を亡くした塚本監督は、母としてのCoccoと出会う。Coccoが実の息子を撮影した写真のタイトルは「A Boy In My Flat(私の部屋にいる少年)」。そのタイトルに「子どもとの間の不思議な距離感を感じた。僕は母にべたべただったので、その違いは何だろうと探るうち、形は違うけれど、それぞれ子どもに対する愛情の別表現で、彼女の距離感は強すぎる愛情だとわかった」

塚本監督演じる作家の田中は、無償の愛を象徴するキャラクターとして、不安さを抱えた繊細な母親琴子の対となる存在として登場。「監督としてCoccoさんをサーチしたいという気持ちと、田中の琴子を探究したいという欲求がシンクロしている。監督、カメラ、田中が一丸となって琴子とCoccoさんに向き合うかたちになりました」。
Coccoの愛や喪失感に触れシナリオを生み出す過程で、現実の暴力の絶対否定というテーマが浮き彫りになる。「だから暴力描写は手加減しない。人間の中にある暴力性は否定しないのでいつも描くが、今回は意味が違った。加減すれば中途半端な肯定になる。それはCoccoさんと一致した」しかし、ラストシーンを自らが体験したエピソードで結ぶことで、絶望的な状況の中での、小さくて確かな救いを照らし出した。
塚本監督は、生きる流れと映画製作の流れがリンクした監督だ。母の死と子どもの成長に直面し、興味の対象が自分という個人の枠を越えた。今作で長年の夢の存在だったCoccoを掘り下げ、その内的宇宙に触れながら、自らのテーマを限界まで追求。「今までは自分の頭の中の葛藤(かっとう)を描いたが、重要な人の発想を入れることで葛藤の振れ幅が大きくなり、そこに答えを見つけていくことに、ダイナミズムを感じた」。塚本監督が提示し続ける生命力がCoccoと結びつき、生々しい命を称えている。
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