タル・ベーラ監督、最後の作品「ニーチェの馬」で映画人生を振り返る
2012年2月6日 17:30

[映画.com ニュース] 哲学者ニーチェの逸話を下敷きに、寒村に住む貧しい父娘と疲れ果てた馬の最期の6日間を描き、第61回ベルリン映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)と国際批評家連盟賞を受賞した「ニーチェの馬」。ハンガリーの鬼才タル・ベーラ監督は、自身の映画哲学を貫き通した本作を“最後の作品”と明言した。
34年間の映画人生を振り返り「非常に長い道のりでした。今回の作品に入る前に、これが最後の作品になると予感していました。自分の仕事は終わったと感じています。言いたいことはすべて語りつくしました」と話し、こう補足する。
「私たちはこれまで人生について語ってきました。これが、最後の言葉です。何かそれについて、本質的なことを伝えたかったのです。人は人生を生きる中で、朝起きて、食事をとり、仕事に行く。いわばルーティーンというような日常を歩むのですが、それは毎日同じではないのです。人生の中で、我々は力を失くしていき、日々が短くなっていきます。これについて、人生はどう終わるのかについて触れる映画を作りたかったのです」
起床、着替え、ジャガイモひとつきりの食事、馬の世話、井戸への水汲み、そして就寝……これらを繰り返すだけの生活が過去からいつまでも続いていることを示すような長い1カットで映し出され、人間の存在の意味を問いかける。長回しを好む理由を聞いた。
「(長回しは)私の映画の言語です。俳優が逃げることができずに状況の囚人となるのです。スタッフ、キャストの全員の集中力、ベストな状態が求められ、カメラが回るそのことが何かを生むのです。また、映画は自分にとって、絵であり、リズムであり、音であり、人の目、動物の目であったりします。こういう長回しの映像を見ている観客はストーリーを追うのではなく、空間、時間、人間の存在を追い、それをすべて集約してその場で起きていることを感じる。そういうアプローチをすることによって、人間はより近づけると思うのです」
最後の作品として、何か観客に対してメッセージを込めて製作したのだろうか。
「メッセージはありません。これはただ映画であり、もしそれが観客の心に触れて動かすようなことができれば、我々はパーフェクトな仕事をしたと思います。で、結果がでなければ我々は間違っていたのだと思います。私は予言者ではありませんし、友人とともに我々の見る、感じる世界を描いています。黙示録(アポカリプス)は、テレビや映画では業火がでてきたりしますが、本当の終末というのはもっと静かな物であると思います。死に近い沈黙、孤独をもって終わっていくことを伝えたかったのです」
「ニーチェの馬」は2月11日公開。
執筆者紹介
松村果奈 (まつむらかな)
映画.com編集部員。2011年入社。
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