劇場公開日 2012年2月11日

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ニーチェの馬 : インタビュー

2012年2月6日更新

タル・ベーラ 深遠な世界観で人間の終末を描く最後の作品

哲学者ニーチェの逸話を下敷きに、寒村に住む貧しい父娘と疲れ果てた馬の最期の6日間を描き、第61回ベルリン映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)と国際批評家連盟賞を受賞した「ニーチェの馬」。モノクロームの画面が映し出す彼らの生活は、人間が生きることの厳しさを見る者におのずと悟らせ、そして静かにしのび寄る終末を眼前にする――。ハンガリーの鬼才タル・ベーラ監督は、自身の映画哲学を貫き通した本作を“最後の作品”と明言した。(取材・文・写真/編集部)

34年間の映画人生を振り返り「非常に長い道のりでした。今回の作品に入る前に、これが最後の作品になると予感していました。自分の仕事は終わったと感じています。言いたいことはすべて語りつくしました」と話し、こう補足する。

「私たちはこれまで人生について語ってきました。これが、最後の言葉です。何かそれについて、本質的なことを伝えたかったのです。人は人生を生きる中で、朝起きて、食事をとり、仕事に行く。いわばルーティーンというような日常を歩むのですが、それは毎日同じではないのです。人生の中で、我々は力を失くしていき、日々が短くなっていきます。これについて、人生はどう終わるのかについて触れる映画を作りたかったのです」

1889年トリノ、ニーチェは鞭打たれ疲弊した一匹の馬車馬に駆け寄り、そのまま精神が崩壊していった……というエピソードの馬のその後を描く本作、馬の持ち主である貧しい父娘は、寡黙に単調な毎日を生きていた。そして質素な石造りの家の外では、いつ止むとも知れぬ激しい風が吹き荒れている。

父と娘の間に、会話はほとんどなく、観客は彼らの日々の生活と家の窓から見える外の様子を凝視することしかできない。セリフについてはこう捉えている。「セリフはふだん書きません。状況から立ち現れるべきものだと思っているのです。言いたいことがあるから言葉が出てくる、それが人生です。通常は俳優に自由に演じてもらうので、沈黙やセリフの指示は一切しません。ただ唯一の例外がモノローグです。我々の作品では、最低1つのモノローグが出てきますが、これは共同脚本のラースローがすべて書いています」

起床、着替え、ジャガイモひとつきりの食事、馬の世話、井戸への水汲み、そして就寝……これらを繰り返すだけの生活が過去からいつまでも続いていることを示すような長い1カットで映し出され、人間の存在の意味を問いかける。長回しを好む理由を聞いた。

「(長回しは)私の映画の言語です。俳優が逃げることができずに状況の囚人となるのです。スタッフ、キャストの全員の集中力、ベストな状態が求められ、カメラが回るそのことが何かを生むのです。また、映画は自分にとって、絵であり、リズムであり、音であり、人の目、動物の目であったりします。こういう長回しの映像を見ている観客はストーリーを追うのではなく、空間、時間、人間の存在を追い、それをすべて集約してその場で起きていることを感じる。そういうアプローチをすることによって、人間はより近づけると思うのです」

父親役のデルジ・ヤノーシュは、前作「倫敦から来た男」にも出演したハンガリーのベテラン俳優。一方、娘役のボーク・エリカは、児童養護施設に入っていた11歳の時に、7時間半に及ぶ大作「サタンタンゴ」に出演。以来、タル・ベーラ作品のみに出演し、ふだんはパートタイムの仕事で収入を得ている女性だ。キャスティングは、演技経験のあるなしにかかわらず、その人の人格だけを見るという。馬のキャスティングもまったく同様だった。

「仕事をしたくない馬をキャスティングしたのです。ルーマニアの国境近いある村で、雨の日曜日に見つけた雌馬です。非常に哀愁を帯びていて、持ち主は『仕事をしたがらないから売れもしない、今日売れなかったら肉屋に送りだしてソーセージになる』と言っていました。私は即座にこの馬だ! と思ったのです。馬を含めすべてのキャストはカメラの前で何かを演じているのではなく、存在するだけなのです」

最後の作品として、何か観客に対してメッセージを込めて製作したのだろうか。

「メッセージはありません。これはただ映画であり、もしそれが観客の心に触れて動かすようなことができれば、我々はパーフェクトな仕事をしたと思います。で、結果がでなければ我々は間違っていたのだと思います。私は予言者ではありませんし、友人とともに我々の見る、感じる世界を描いています。黙示録(アポカリプス)は、テレビや映画では業火がでてきたりしますが、本当の終末というのはもっと静かな物であると思います。死に近い沈黙、孤独をもって終わっていくことを伝えたかったのです」

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