アカデミー賞受賞監督、原発問題は「国民がどう考えるかが重要」
2011年11月2日 12:06
[映画.com ニュース] 1986年のチェルノブイリ原発事故の被害にいまなお苦しむ人々の姿を描いたドキュメンタリー映画「チェルノブイリ・ハート」のマリアン・デレオ監督が来日し11月1日、本作の完全ガイドブック出版を記念し都内で行われた特別上映会に出席。上映後に観客からの質問に応じた。
“チェルノブイリ・ハート”とは穴の開いた心臓を指す言葉で、チェルノブイリの事故後、ベラルーシでは多くの子どもたちが障害を抱えて誕生する。映画は事故後も“ホット・ゾーン”の村に住み続ける人々や小児病棟、乳児院の現状を描き、2003年のアカデミー賞短編ドキュメンタリー賞を受賞した。
デレオ監督は今回の来日で、被爆地の長崎を訪問し映画の上映会を開催した。この日の客席には、福島から首都圏に自主避難しているという男性や、子育て中の母親など多くの人々が来場。デレオ監督に今作を製作したことに感謝の思いを伝えるとともに、次々と質問をぶつけた。
客席を見渡したデレオ監督は、「やはり福島の問題があるということで、今ここにいても緊張感を感じます。福島の事故を聞いて『第2のチェルノブイリにしてはいけない』と強く思いました」と沈痛な面持ち。一方で、「チェルノブイリは原子炉の爆発が起きましたが、福島で起きたのは水素爆発。多くの意味で2つの事故は違うとも思ってますし、同一視するのは危険だとも思っています」と冷静な判断を呼びかけた。
さらに原発再開を進めようとする日本政府の姿勢について、「私の考えよりも国民のみなさんがどう考えるのかが重要です。私としては現実問題として原発を全廃することは難しいのでは? とも感じています」と答え、日本人のひとりひとりがこの問題に向き合うことの重要性を説いた。映画の中では、事故の影響で障害を抱える子どもたちが暮らす施設も映し出されるが「ああいう施設が日本で生まれないようにするのはみなさんの責任。もちろん、日本だけではありません。私も含め世界中がしなくてはいけない努力だと思います」と言葉に力を込めた。
震災直後に3人目の子どもを出産し、放射能への対応に苦慮しているという都内在住の女性は、ベラルーシで生活する母親や子どもたちがどのように状況を受け入れ、人生に楽しみを見出していったのかと質問。デレオ監督は「あそこではガンの子どもたちも普通の生活を送り、人生を楽しもうとしていました。それは子どもなりに状況を受容しているから。私はその姿に感銘を受けました。子どもは親の姿を見て育つものです。親が強いストレスを感じ、緊張していると、それが子どもに伝染してしまうのではないでしょうか」と優しく語りかけた。
「チェルノブイリ・ハート」はヒューマントラストシネマ渋谷で公開中。
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