自身のトラウマからの解放になった「冬の小鳥」ウニー・ルコント監督
2010年10月8日 16:20
[映画.com ニュース] 昨年のカンヌ国際映画祭で特別招待作品として上映され、同年10月の東京国際映画祭ではアジアの風部門で最優秀アジア映画賞を受賞した、韓国・フランスの合作映画「冬の小鳥」が、10月9日から公開となる。1970年代の韓国で孤児となり児童養護施設に預けられ、9歳で養子としてフランスに渡ったウニー・ルコント監督が半自伝的な物語をつづった長編デビュー作である。
「過去に捨てられたことは確かに大きな傷跡になっていて、それに向き合うことをずっと避けてきた。ですが、今回このテーマで映画を作ることによって、真剣に正面から傷跡に向き合ってみようという決意で取りかかりました」
舞台は1975年のソウル郊外。9歳の少女ジニ(キム・セロン)は父親に連れられ、わけもわからぬまま児童養護施設に預けられてしまう。いずれ父親が迎えにくると信じながら過ごすジニだったが、徐々に現実を受け入れ始める……。
「9歳の少女の視点で撮ること」が演出の最優先事項だったと振り返るルコント監督。ジニの主観的な目線を見せられるよう、視点の高さにカメラを置いた。
「ジニの内面の感情がどう変化、進化していくかを追うためには、その方法が一番いいと思いました。最初は父親の顔が見えなかったり、フレームの上や横が切れていますが、ジニが施設に入って少しずつ環境に適応するにつれて視野が広がっていく。ジニの気持ちの変化を、視野の広がりを見せることで表現してみました」
その一方で、コントラストや色調にも気を配った。
「昔の話であるとともに子ども時代の思い出なので、少し色あせたような淡く優しい色合いの画調にしました。孤児院の子どもたちが置かれた環境が過酷で厳しいものなので、淡く優しいイメージを対比させて使うことで、メランコリーや哀しさ、そして切なさといった感情を喚起させたかったんです」
プロデューサーを務めたのは「ペパーミント・キャンディー」「オアシス」で知られる韓国の名匠イ・チャンドン。「シークレット・サンシャイン」の上映に伴って来仏したチャンドンにシナリオを見せたことから、本作の企画が動いた。
「最初は純粋に韓国人としての意見を聞きたかっただけなのですが、読んでもらって、アドバイスを受けたことから、第2稿、第3稿と一緒に書いていくことになりました。ただ、コラボレーションといっても、基本的には私が何か疑問に思ったり、アイデアが浮かんだりすると、それを彼に投げて返してもらうという感じで、イ監督は『壁打ち練習をするテニス選手がウニーだとすると、僕は壁だ』と言っていました(笑)。私の意図をよく理解していて、とても親身になって協力してくれました」
渡仏してから30余年。本作を完成させたことで、フランスの家族とはより深い関係になったという。
「父は数年前に亡くなっているのですが、母と兄弟は『この映画を見てあなたをよりよく知ることが出来た』と語ってくれました。これまで話したくても話せなかったり、コミュニケーションが取れなかったことが、映画を見てもらったことで、私がどんな経験をして、どんなことを考えていたか、その一部をようやく理解してもらえたように思います。この映画は、私自身にとってもトラウマからの解放になったと思います」
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。