「絵画を見るように感じてほしい」矢崎仁司監督の新作「スイートリトルライズ」
2010年3月12日 17:57
[映画.com ニュース] 「ストロベリーショートケイクス」「三月のライオン」で知られる矢崎仁司監督の新作「スイートリトルライズ」が今週末に公開となる。江國香織の同名小説を映画化した本作は、テディベア作家の瑠璃子(中谷美紀)とIT企業勤務の聡(大森南朋)の夫婦がお互いに嘘をついて行う不倫とその顛末を描く物語だが、「ストーリーを理解しようとしないで、絵画を鑑賞するように感じてほしい」という矢崎監督の言葉通り、2人が醸し出す空気感に重きを置いた作品となっている。
「今回は夫婦の話なので、2人の間に事件を起こしたくなかったし、目に見える対立も描きたくなかった。自分としては、そういった対立をいっさい起こさないで映画を完成させることはできないかと思っていたことはたしかですね。逆にいうと、そういう事件が起きない映画があってもいいじゃないかと思って撮ったんです」
もともと江國香織の他の小説を映画化したいと考えていたところに、本作映画化の話をもらったという矢崎監督だが、以前から、成瀬巳喜男、ミケランジェロ・アントニオーニ、ベルナルド・ベルトルッチらが作ってきたような「夫婦の映画」を撮ってみたかったという。
「夫婦って絶対にパターンに入らないんですよね。だから瑠璃子と聡のカップルというのは、世界にひとつしかないわけです。夫婦っていうのは絶対にそういうもので、他人には理解できないものだと思うんです。だから、この夫婦が現代の夫婦を象徴しているように見えようが見えまいが、この夫婦独自のストーリーと思って撮ってましたね」
そう語る矢崎監督が本作を演出するにあたって、最初に意識したことは作品全体に「死のイメージを散りばめること」だとか。
「とても感覚的なことなのですが、映画のなかで人がいなくなることを繰り返して、それを積み重ねていきたいと思ったんです。それは永遠の別れとかそういうことではなく、玄関の前でさっきまで立っていた人が、会社に行っていなくなる、エレベーターのドアが閉まる、電車のドアが閉まるといった、小さな別れを積み重ねて、“人がいなくなること”を見せたいという考えがありましたね」
そのすべての関係性、空気感を映像として可視化していく演出が最大限に発揮されたのが、主人公たちが住むマンションの部屋や彼らが使う小道具。マンションのベランダから見渡せる風景の中には「死のイメージ」を喚起させる小さな墓地があり、台所にポツンと置いてある青いル・クルーゼの鍋からは、料理好きだが孤独な人妻の姿が見えてくる。
「ロケ場所や小道具は、スタッフのみなさんが脚本をよく理解して、いろいろと手を尽くしてくれた結果だと思います。実は、あのマンションは撮影が始まっても決まらなくて、ギリギリで見つけてくれた場所でした。部屋のなかだけじゃなく、窓の外の風景まで奇跡でしたね。でも僕が撮影に入る前にスタッフの皆さんに伝えたことは『死のイメージを散りばめたい』だけなんですよ(笑)」
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