鬼才スコリモフスキが語る、17年ぶりの新作「アンナと過ごした4日間」
2009年10月16日 18:51
[映画.com ニュース] ポーランドが生んだ伝説的な鬼才イエジー・スコリモフスキの「アンナと過ごした4日間」が公開される。ワルシャワ近郊の寂れた集落に住む独身の中年男レオンと、若い看護婦アンナの謎めいた交渉のてん末を描いた傑作である。
「10数年前、ロサンゼルスタイムズに載った小さな囲み記事――ある日本人青年が好きな女性の部屋に夜な夜な忍び込み、傍らでなにもせずに数日間、過ごしていたという一行になぜか惹かれたんです。そして17年ぶりに映画を撮ることになり、このエピソードを思い出したのです」
好きになった女性に、狂気のような一途な思いを捧げる主人公は、彼のかつての青春映画の傑作「早春」を想起させる。
「私が作る映画は『早春』も、昔、ポーランド時代に撮った作品もそうですが、主人公が孤立し、疎外されている場合が多い。それがなぜかといえば、私自身の生き方と非常に類似しているからです。私は父親がナチスに捕虜収容所で殺され、母親はレジスタンス運動にかかわっていたために、ずっと孤児院で育ちました。そのため私には、どこか特定の団体や党などに所属しているという意識が欠けていました。常に自分は外から眺めているという気がしています。そうした孤立感が映画の中に反映されているのでしょう」
盟友ロマン・ポランスキーと同様、海外を転々とした映画作りを続けてきただけに、祖国ポーランドへの思いは複雑で屈折している。
「たとえば、アンジェイ・ワイダは映画を通してポーランドという国を広く世界にアピールしたいと考えています。でも私にはそのような愛国心は稀薄なのです。私は60年代に政治的なテーマを描いた作品を撮ったために、ポーランドを追放されました。以来、私には、世界中のどんな場所にもルーツがないのです。かつてはチブルスキーやクシシュトフ・コメダのような若い時に亡くなった親友たちがいました。彼らこそ、自分のルーツだったのかもしれません。私がつくる映画が、そのようなメランコリックな喪失感や愛の困難さを湛えているとすれば、恐らくそうした私自身の運命と深くかかわっているからだと思います」
「アンナと過ごした4日間」は10月17日から、東京・渋谷イメージフォーラムで公開。