劇場公開日 2009年10月17日

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アンナと過ごした4日間 : 映画評論・批評

2009年10月13日更新

2009年10月17日よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー

男の猛り狂った一途な思いを、ゆるやかに対象化するユーモアのさじ加減が見事

よるべなき少年の胸張り裂けんばかりの狂恋を描いた青春映画の傑作「早春」が忘れがたいイエジー・スコリモフスキの17年ぶりの新作。やはり孤独な中年男レオンが主人公である。彼は家の向かいの看護婦寮に住むアンナの部屋を、夜な夜な見つめ続ける。そして、遂にある行為に及ぶ。男にとっては至福と恩寵に満ちた4日間の出来事を、映画は息詰まるようなサスペンスと絶妙な距離をもって描き出す。

フランドル絵画を思わせる、鬱蒼とした森へと続く長い一本の道、古色蒼然たる教会の尖塔と家並みが続く寂れた集落は、そこだけ現代から隔絶した小宇宙のようにも見える。忌まわしい悪夢の記憶のフラッシュバックや、血塗られた手首、鈍い光を放つ斧、川面をゆっくりと流れていく牛の屍といった禍々しいイメージが積み重ねられ、当初、おぞましき犯罪者かに見えたレオンが、次第に、不可解な共感を呼び起こす。

全編に遍在する<音>が、すばらしい効果を発揮している。教会の鐘、アンナの誕生パーティで交わされるシャンペン・グラスの音、ヘリコプターの轟音、疾走する救急車のサイレン、レオンが無心に弾くアコーディオン……。それらの繊細な<音>の連なりがレオンの内面と深く呼応し、彼の根源的な不安や怯えを際立たせていく。とくに、男の猛り狂った一途な思いを、ゆるやかに対象化するユーモアのさじ加減が見事である。かつてのポランスキーの盟友で、「水の中のナイフ」のシナリオを書いた鬼才は、ゆるぎなき世界映画の巨匠として、あざやかな帰還を果たした。

高崎俊夫

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