監督が語る、「第九」誕生の裏側を描いた「敬愛なるベートーヴェン」
2006年12月5日 12:00
06年も年の瀬が迫り、「第九」のコンサートがほうぼうで開かれる季節。この人類史に残る交響曲誕生の過程と、作曲家ルートウィヒ・バン・ベートーベンの晩年に光を当てた「敬愛なるベートーヴェン」が間もなく公開される。本作のアニエスカ・ホランド監督に話を聞いた。
自身もベートーベンが好きだと言う監督は、「耳が不自由になり下降線の人生を歩んでいた彼が、逆に天上を目指すような創造性を発揮していった。その晩年を描けるところに共感しました」と、本作の監督を引き受けた理由を語る。また、「アンナという女性の目を通し、“人間”ベートーベンを見ることができるというところも興味深かった」と言う。晩年のベートーベンには3人の写譜師(作曲家が書いた楽譜を清書する職業)がおり、そのうち2人は男性で名前も判明しているが、最後の1人はいまだにはっきりしていない。本作は、その最後の写譜師が「もしも若く才能に恵まれた女性だったら」という発想のもとに描かれている。しかし、フィクションとはいえ「皆さんが思っているベートーベン像から遠く離れたものにするつもりはありませんでした」と監督は語る。「人間はたくさんの内面をもつ複雑なもの。私はそこに深く踏み込み、今まであまり知られていなかったベートーベンと他の人間との関係や、彼が人に語らなかった夢といったものを探ったのです。劇中で彼がみせる優しさも、彼の残した手紙などから見えてきた彼の人間像なのです」
1824年5月7日の「第九」初演のシーンは、劇中のクライマックスのひとつ。12分に及ぶ「第九」の演奏シーンが展開されるが、ベートーベンに扮したエド・ハリスの見事なタクトさばきと、彼を陰から支えたダイアン・クルーガー扮するアンナとベートーベンの密かな愛の交歓にも注目しつつ、この年末は映画館へ「第九」を聴きにいってみるのはいかがだろうか?
「敬愛なるベートーヴェン」は、12月9日より全国ロードショー。