TALK TO ME トーク・トゥ・ミー : インタビュー
2023年12月21日更新
「ヘレディタリー 継承」「ミッドサマー」などを超え、北米で“A24ホラー史上最高の興行収入”を記録した「TALK TO ME トーク・トゥ・ミー」が、遂に日本上陸を果たす(12月22日公開)。題材となっているのは、“最高にブッ飛べる”「#90秒憑依チャレンジ」。この奇想天外のアイデアで衝撃的な長編映画監督デビューを果たしたのが、ダニー・フィリッポウ&マイケル・フィリッポウ兄弟だ。
超人気YouTuberでもあるふたりのチャンネル「RackaRacka(ラッカラッカ)」は、ブラックで尖ったコメディや、日本アニメの自家製実写版など、個性的でエッジの効いた動画が高評価を集めている。A24製作による続編「Talk 2 Me(原題)」が決定しているほか、「ストリートファイター」を米レジェンダリー・エンタテインメントとタッグを組んで実写映画化に挑むことになっている(ハリウッドのストライキの影響で一時ストップ。現在は製作が再開している)。
2023年10月、来日を果たしたフィリッポウ兄弟。念願のチャレンジだった“初の長編映画”について話を聞いた。
【「TALK TO ME トーク・トゥ・ミー」概要】
2023年サンダンス映画祭で話題を呼んだオーストラリア製ホラー。SNSで流行する「90秒憑依チャレンジ」にのめり込んだことから思わぬ事態に陥っていく女子高生を描いている。
2年前の母の死と向き合えずにいる高校生ミアは、友人からSNSで話題の「90秒憑依チャレンジ」に誘われ、気晴らしに参加してみることに。それは呪われているという“手”のかたちをした置物を握って「トーク・トゥ・ミー」と唱えると霊が憑依するというもので、その“手”は必ず90秒以内に離さなければならないというルールがあった。強烈なスリルと快感にのめり込みチャレンジを繰り返すミアたちだったが、メンバーの1人にミアの亡き母が憑依してしまう……。
●映画を作る“夢”は9歳から――YouTubeでの経験でいかされたこと
――本作のプロダクションノートには「僕たちがこれまでしてきたこと、また僕たちがこれまで作ってきたものは全て、長編映画デビュー作を作るためだったんです」というコメントがありました。“夢”を叶えたことになりますが、この“夢”はいつ頃から抱いていたものなのでしょうか?
ダニー・フィリッポウ(以下、ダニー):9歳の頃からの“夢”でした。ですが、オーストラリアのエンタメ業界は無いに等しいんです。映画を作りたいと思っていても、製作資金の確保など、ある程度の“ハシゴ”をのぼっていかないといけないんです。でも、YouTubeであれば、そのハシゴをのぼらずに、すぐさまオンラインで発表することができる。まずはとっかかりとして、YouTubeをスタートさせていたんです。
――「映画を作りたい」と感じるようになった“きっかけの映画”はありましたか?
ダニー:映画ではありませんが、「グースバンプス」(R・L・スタインの児童ホラー小説シリーズ)。これを読んだ時に「クリエイティブなことが仕事になるんだ」と思いました。
マイケル・フィリッポウ(以下、マイケル):映画という括りでは、あまりにもいっぱい見過ぎていて……。1本だけを簡単にあげることはできないんです。
――今回、YouTubeでの経験がいかされたということはありましたか?
ダニー:とても助けになりました。YouTubeで発表していた映像では、色々な事を実験していたんです。セットを作ったり、VFXを試してみたり、特殊メイクを練習してみたり……。メイクアップを手伝ってくれていた女性がいるのですが、彼女は映画作品でのメイクアップの“トップ”にはなったことがありませんでした。でも、今回は彼女がノミネートしてくれいて、メイクアップ部門の“トップ”を任せています。
マイケル:色々な意味でYouTubeでやってきたことが役立っているんだと思います。現場で色々な人と仕事をする。それはスタントの人だったり、スペシャルエフェクトの人だったり――YouTubeでやってきたことだったので、映画の現場に行った時も、居心地はとてもよかったんです。
●長編映画の製作は「とてもエキサイティング。YouTubeでは表現できなかった部分も探求できた」
――YouTubeのコンテンツとは異なり、今回は“95分”の長編映画。長尺の作品を手掛けることになりましたね。
ダニー:尺が長いということは、僕にとってはすごくエキサイティングなことだったんです。 尺が長いことによって、もっと個人的なものを探ったりすることができる。YouTubeでは表現できなかった部分まで探求できるというのが良かった。例えば、YouTubeの場合、「2人の人物がただ喋ってる」というようなシーンは、なかなかできないんです。なぜなら“派手に表現して、注目を浴びる”ということが大事になってくるから。ですので、長尺になると“色々なことができる”。多くのことを試す余地があったので、すごく自由になった気分でした。
マイケル:そして、脚本がしっかりできているということが、すごく重要だと思いましたね。撮影をスタートしてから、3、4週間目ぐらいになってくると、もうワケがわかんなくなってくる(笑)。でも、脚本がしっかりしていれば、そこに立ち戻って「あ、こういうリズムだったな」と把握することができる。これがないと本当に混沌としているので、迷子になってしまうんです。
――おふたりの友人であるデイリー・ピアソンさんから「霊に取り憑かれる体験を楽しむ10代の少年たちを描いた短編映画」を共有されたことで、想像が膨れ上がっていたと思います。
ダニー:デイリーが作った作品は、コメディホラーのようなものでした。子どもたちが憑依を楽しんでる。そのコンセプトがすごく面白いなと思ったんです。それらを参考にして、いくつかのシーンを書き直していたら、止まらなくなってしまって。4日間で70~80ページの草稿ができ、共同脚本のビル・ハインツマンと一緒に仕事をすることになりました。
●手を握って「Talk to Me」と唱える→このアイデア、どうやって生まれた?
――降霊チャレンジの手法は「手を握って、『Talk to Me』と唱える」というもの。きっかけの言葉を「Talk to Me」にした理由はありますか?
ダニー:これはミアの孤独と結びついています。彼女は寂しさを抱えているので“誰でもいいから話をして”と考えている。そして、“中に入る”ということは、心の穴があいているということ。この穴を埋めるために、良いものでも、悪いものでもいいから入ってきてということを表現しています。穴を埋めるものは、ドラッグでもいいし、アルコールでもいい。そして、セックスでもいいということになっているんです。
――主人公ミアの存在は、本作のテーマと密接に関わっていますよね。ミアは、初稿段階から存在していたキャラクターだったんでしょうか?
ダニー:はい、最初からいたんですが、実は「TALK TO ME トーク・トゥ・ミー」以前、別作品の脚本を書いていて、その中にいたキャラクターたちの力動関係がものすごく気に入ってたんです。実は、その関係性を、本作におけるミア、ジェイド、ライリーの3人に、そのまま移植しています。他にも自分がすごく惹かれた要素を集めてきて、全部「TALK TO ME トーク・トゥ・ミー」に入れているんです。
――ちなみに劇中に登場する“手”には、さまざまな文字が書かれています。「手の歴史を表したいと思った。世界中を回ってきて今回、映画に出てくるティーンたちの手に渡ったので、世界中のいろんな霊や恐ろしいものが書いてあるようにしてある」と仰っていましたが、具体的にはどんなことが書かれているのでしょうか?
ダニー:“手”に関しては、神話的なバイブルも作ったんですが……言いたくないです(笑)。見て頂いた方の解釈に委ねます。もしかしたら続編でそのあたりを探るかもしれません。
マイケル:ヒントがいくつかあるんですけどね……。まぁ、自分で探してみてください(笑)。
●双子YouTuber監督の役割分担について
――映画を再見して探ってみます(笑)。では、本作での役割分担について教えていただけますか?
マイケル:脚本はダニーだけではなく、デイル・ロバーツやビル・ハインツマンも意見していました。僕は監督としてセットにはいましたが、“口頭で直接伝える”という役割は、ダニーに任せていました。2人の口から話して、それが統一されていないと「え、どっちの言っている事を聞けばいい?」となってしまうから。もうワンテイクやりたいと思った時は、まずはダニーに話す。それから、ダニーが皆に伝えてくれる。そういう形にしていました。
編集はそれぞれでやることにしたので、色々なバージョンが生まれました。ですから、物凄く細かな部分でケンカというか、議論になったんです。例えば「このショットは何秒にしたらいいか」とか「ここは切り替えた方がいいのか」とか「この音楽、もしくは音響はどのぐらいのボリュームがいいのか」などなど。
例えば、ミアが最初に“手”をつなぐ前のシーンでは、脈のようなリズムの音響デザインがありました。僕は「その音はいらない」と思いました。そういう音があると、何かが起きるという気持ちにさせてしまうから。でも、ダニーは「あった方がいい。何かが起こるかもしれないというのもあってもいいと思う」よ。そこで、それぞれのバージョンを信頼できる人々に送って「どっちがいい?」と聞いたんですが……「どっちでも変わらないんじゃない?」「どう違うの?」と言われてしまいました。あまりにも微妙な違いだったんです。
●最も恐怖を感じることは何?
――シンプルな質問になります。おふたりが最も恐怖を感じることはなんでしょうか?
ダニー:子どもの頃は、色々なものを怖がっていました。例えば、ひとりになってしまうこと。疎外されることは、大きな恐怖でした。それから愛する人との繋がりが断たれるということも怖かった。
マイケル:“受け入れてもらえない”というのも怖いよね。あと、実は僕はヘビが怖いんだ。YouTubeを始める前、プロダクションランナーをやっていた頃があるんだけど、あるテレビ番組で子どもたちをアテンドしていました。子どもたちは、白い蛇を掴むことになったんですが、嫌がってしまって、誰も掴めなかった。そしたら「マイケルは掴める」ということになって、蛇を体にぐるぐると巻いて……。怖くないと装っていたけど、実はすごく怖かった(笑)。
ダニー:僕の恐怖はもっともっと内面的なものだけど、マイケルは単に臆病なんだよ(笑)。
マイケル:(笑)。
●恐怖を描いているのに、ハッピーエンドになってしまったら怖くない
――お答えいただきありがとうございました(笑)。本作のラストは意外性に満ちています。何故“あのような形”で幕を閉じようと思いましたか?
ダニー:このラストは最初から考えていたことで“悲劇”を作りたいと思っていたんです。自身の悪意の犠牲者になってしまう……そんな話がいいなと思いました。それに、僕はこう思っているんです。恐怖を描いているのに、ハッピーエンドになってしまったら怖くないと。恐怖を描くのであれば“最悪の結果”にしないと、完璧じゃないというか……きちんと完了しない感じがしています。
マイケル:ストーリーを追っていくとわかると思いますが、ミアはいくつかのステップを踏んでいきます。それぞれの段階で異なる選択もできたはずなのに、“堕ちる”という選択を重ねていったんです。