「観る者の胸にこびり付いた心の垢を落とす」DOGMAN ドッグマン La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
観る者の胸にこびり付いた心の垢を落とす
DV父により犬の檻に閉じ込められて育った男が、やがて女装のドラァグ・クイーンとなり、怒り・悲しみ・絶望を犬たちに仮託して爆発させる物語です。
多くの犬たちは、男の心を完全に読み取り的確に動いてくれるのが見事。暗く重いクライム・ストーリーですが、犬好きの方には堪らない可愛さではないでしょうか。僕のパルムドッグ賞(カンヌ映画祭参加作の中で優れた演技の犬に贈られる賞)は本作に決まりです。
理不尽に蒙らねばならなかった身の不幸に対する社会的意趣返しという点では『ジョーカー』にも通じるテーマですが、あちらが「吠える映画」であるとするならば本作は「唸る映画」と言えるでしょう。内面に溜めた思いのきつさは本作の方が堪えます。
そして、中盤における「私は神を信じているが、神は私を信じているのか」の悲痛な言葉を受けたラスト・シーンは強烈でした。
また、エディット・ピアフの『水に流して』、マレーネ・デートリッヒの『リリー・マルレーン』、そして、マイルスの『So what』に至る音楽の選択も的確で心が震えます。
観る者の胸にこびり付いた心の垢を落とすにはこの作品くらい強いタワシでなくてはなりません。僕たちも血を流しながらスクリーンに見入ってしまうのでした。
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