「IN DOG WE TRUST」DOGMAN ドッグマン かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
IN DOG WE TRUST
野良ワンコたちを操って悪者をやっつけるエンタメ系ムービーと思いきや、リュック・ベッソンにしてはアクションも控え目で、割りとアーティスティックな1本に仕上がっている。『ニトラム』でニートなサイコ・キラーを演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズが、本作では車椅子生活を余儀なくされたドラッグ・クイーンを演じている。当然アクションには制限があるわけで、主人公ダグラスの代わりに頭のいいワンコたちが手となり足となり悪を成敗するのだが、ハッキリいって想定内、新鮮味のある演出は今回特に見当たらなかった気がする。
ベッソンによれば、父親によって犬小屋に閉じ込められた少年のニュースを新聞で知り、その後のストーリーをベッソンなりに想像して組み立てたシナリオらしい。ダグラスの兄ちゃんで、ドメバイ親父にべったりのキリスト教原理主義者が登場するのだが、本作はその原理主義の名のもとに弱者を平気で傷つけようとする輩へのアンチテーゼになっているという。宗教、マネー、暴力。それらを武器とする絶対的権力に立ち向かうため、神が不幸者ダグラスに犬を遣わしたという設定だ。
じゃあ、それら原理主義者たちの束縛から自由になるためにはどうすれば良いのか。今までのベッソンだったら、当然犬を使ったバイオレンスに突っ走るところだが、今回そこら辺の描写をかなり抑制しているのである。ドッグステーションの管理人からドラッグ・クイーンに転身を遂げたダグラスは、アーティストとしてこの世に蔓延る原理主義者たちと対峙するのだ。それだけに、エディット・ピアフやマレーネ・ディートリッヒ、マリリン・モンローをカバーしたダグラスの歌声が何故か口パクだったのが何とも悔やまれるのである。
映画は、ダグラスと同じく精神的な痛みを抱えたシングルマザー精神鑑定医師による事情聴取形式をとっている。女装はしているものの、女医の質問に対して終始落ち着いた口調で回答するダグラスの様子に、ハンニバル・レクターのような異常性は全く感じられない。至極まっとうなのである。ワンコたちもそんなダグラスの気持ちを汲み取って、あくまでも自由意思に基づいて行動するのである。「私は立っている!」“フランダースの犬”というよりも、ローマ教会という絶対的権力に真っ向から対立したマルティン・ルターを意識した演出だろうか。
“IN GOD WE TRUST”の文字を硬貨に印刷することを、当時のアメリカ大統領セオドア・ルーズベルトは神への冒涜だと批判したらしい。皮肉なことにアメリカは、その後文字通り金を神と崇めることによって経済的発展を遂げ、No.1の地位を築けたのである。しかし、世界中の不幸を一人で背負いこんだような人生を送ってきたダグラスにとって、信じるべきはアメリカという国でも金でも神でもないDOG(GODの逆さ読み)だったにちがいない。