「不毛の大地で育まれた愛」愛を耕すひと レントさんの映画レビュー(感想・評価)
不毛の大地で育まれた愛
貧しい退役軍人ながらも、古びた一張羅の軍服を着て馬に乗る姿はどこか中世の騎士を思わせる気品とストイックさを兼ね備え、無表情で不愛想でもその内に秘めたる温かみのある表情を時折垣間見せる。そんなマッツ・ミケルセン様の魅力全開の中世愛憎劇。
貴族の私生児として生まれ、不遇な人生を強いられた男は戦場に赴き殊勲を得るも、このまま年老いて退役軍人として人生を終えるつもりはない。貴族の称号を得るために彼は国が断念した土地の開拓に一人挑もうとする。
自分を息子と認めなかった貴族の父への思い、そんな父を見返したいという思いからなのか彼は己の名に「フォン」を刻み込むため、貴族の称号を得るために未開の地の開拓に挑戦する。
荒涼とした大地は50年もの間あらゆるものを寄せ付けず開拓者たちを頑なに拒んできた。あまりに厳しい気候、何ものをも受け入れようとしないその頑強な土壌を持つ大地にいま一人の男がくさびを打ち込む。
長年愛を知らず、ただ戦いに明け暮れたケーレンの心には荒涼とした大地と同様に冷たい風が吹きすさんでいた。すべてのものを拒絶し孤独の中で生きてきた男の姿はまさに何ものも受け入れようとしないこの大地の姿と被る。しかし逃亡小作人の妻のアンやタタール人の少女アンマイとの交流を通して彼の乾いた心は次第に湿り気を帯びていく。
彼ら家族同然のいとなみが固く閉ざされたケーレンの心にくさびを打ち込み乾ききった彼の心を潤わせていった。彼らが力を合わせてこの乾ききった大地を農場に適した湿り気のある大地に変えたように。そして彼らの間に強い絆が芽生えた時、頑なだった大地も心を開くかのように小さな一つの芽を芽吹かせる。
開拓地を自分の領土と主張するシンケル卿の様々な妨害を受けながらもついに彼らは力を合わせて苦難の末に開拓に成功する。しかしいまだシンケルによる執拗な嫌がらせがやむことはない。ようやく心を開いた大地、しかしそこには悪魔が巣食っていたのだ。
シンケルによって囚われの身となるケーレン、王室にも見放されもはやこれまでかと思われたときアンの捨て身の行動が彼を救う。
シンケルは死に、すべての脅威は去った。しかし領主殺害の罪を負ったアンは終身刑に、けして生きて逃れられない運命となる。開拓民も去りケーレンは一度手放したアンマイと再び暮らし始め、月日は流れた。
ついに待ち望んだ貴族の称号を手に入れたケーレンだったが彼の心はどこか寂しげだった。年頃になったアンマイは恋に落ち、彼の元から去る。再び孤独の生活に戻った彼はその時気づく、自分が人生で本当に求めていたものがなんであったか。それは貴族の称号などではない、それは彼が生まれて一度も手にしたことのなかった家族のぬくもりであり家族の愛だった。彼がこの大地の開拓によって育んだもの、それは愛でありその愛こそが彼が本当に求めていたものであった。それに気づいた彼は貴族の称号を投げ捨ててこの地を去る。本当に自分が手に入れたものを取り戻すために。
ルドヴィ・ケーレンはけしてその名にフォンが刻まれることはなかった。彼にはそれよりも大切なものがあったことに気づいたのだった。
とても見ごたえがある作品であり、主人公たちに次から次へと降りかかる試練など見ていて気が抜けません。終始安心して見れなかったので結構疲れます。どこまでが史実かわかりませんが映像がとても美しく、中世を舞台にした貴族たちによる愛憎劇はドロドロした昼ドラのようで奥様方にも喜ばれるかと存じ上げます。劇場はマッツ様目当ての女性で埋め尽くされていました。
特筆すべきはシンケルの悪役っぷり、近年まれに見るものがありました。アカデミー賞悪役大賞受賞は間違いないでしょう。ここ十年で一番の悪役ぶりではないでしょうか。
舞台が絶対王政の時代で人権なんてあってなきがごとしなだけにバッドエンドを予想しましたが、シンケルが死んでくれてやっとそこから安心して見れました。
ほんと観客をも欺くあのエレル嬢に成りすましての馬車での登場は映画史上類を見ないほどのもの、私も見事に騙されました。
土地開拓の話としか前情報入れてなくて、まさかこんなに娯楽性高い作品とは。鑑賞は疲れますがそれだけに見ごたえある大作です。劇場の女性客同様私もマッツ様にメロメロです。
レントさん、コメント有り難うございます。・_・
>もしかしてマッツ様の写真集みたいな感じなのかなあと
映画評論家のレビューやらが多めの人数分(10名程くらい)
載っていて、多いほうかな? とは感じました。
改めて全体をみてみると、写真集とみても良いくらいに多く
の写真が使われています。どれも綺麗です。
「マッツ様」の写真が一番多いですよ。他にも、色々な場面
の写真が広く使われていて、場面を振り返るのにも良さそう
な感じがしました。
(1650円は高いといえば高いですが… でも満足・_・)