劇場公開日 2023年12月1日

「英雄(or愚将)と怠惰妻ののっぴきならない関係」ナポレオン regencyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5英雄(or愚将)と怠惰妻ののっぴきならない関係

2023年12月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

予想通り、リドリー・スコットのこれまでのフィルモグラフィをおさらいしたような内容だった。
大いなる権威や象徴を得た者の悲劇という視点で『ゲティ家の身代金』、『ハウス・オブ・グッチ』が重なれば、男共を手玉に取る女という視点では『テルマ&ルイーズ』、『ハウス・オブ~』、『最後の決闘裁判』を、男と男の真っ当からぶつかり合う闘いという視点だと、デビュー作『デュエリスト 決闘者』や『ブラック・レイン』、『エクソダス/神と王』などを想起。兄弟の絆を描いているあたりは、実弟の故トニー・スコットとのそれだろう。
小柄なナポレオンをホアキン・フェニックスが演じると知った当初は驚いたものの、DC展で展示していた『ジョーカー』の衣装の小ささに驚いた事を思い出し、適役だったんだなと認識(ホアキンは175cmぐらい)。
歴戦の英雄なのか?それとも死者を多数出してしまった愚将なのか?見方によってどちらとも取れるような曖昧な人物像のナポレオンを演じきったホアキンは流石の一言。ただ、年月経過を体重増加とカエサル(シーザー)カットになっていく頭髪で把握するしかなかったのは、ちょっとおざなり感。それよりも何よりも印象深かったのは、妻ジョゼフィーヌを演じたバネッサ・カービーの怠惰妻ぶり。性欲発散よりも子が欲しいという願望が強いナポレオンを、半ば事務的に受け入れる彼女のけだるさが絶妙すぎた。
大スクリーン映えする戦場シーンを含めてゴア描写が満載なのも、とても86歳が撮ったとは思えないほど才気走っていたスコットだが、『グラディエーター』で『スパルタカス』オマージュを詰め込んでいただけあって、やっぱりキューブリックが好きでたまらないんだなというのがよく分かった(劇中での仮面舞踏会のシーンは『アイズ・ワイド・シャット』オマージュか?)。とにかくスコットには、亡くなった弟の分まで映画を撮り続けてほしい。

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